2026年10月1日から、コールセンターを運営する会社にも、カスハラから従業員を守るための雇用管理上の措置が義務になりました(労働施策総合推進法第33条第1項、令和8年厚生労働省告示第51号)。告示はカスハラに電話で行われるものも含むと明記し、十分な説明を行ったうえでなお繰り返しの要求が続く場合に、一定の時間の経過をもって電話を切ることを、対処の内容の例に挙げています(p.3、p.15)。何分で、誰の判断で通話を終えるか、どこへ引き継ぐかは、各社がセンターの実態に合わせて決め、オペレーターに周知します。
この記事は、電話窓口で決めておくことと、在宅オペレーター・委託先コールセンターの論点に絞って整理します。義務になる措置の全体はカスハラ対策の義務化で、業種を問わない現場の初動はカスハラが発生したら?初動対応で扱っています。
コールセンターで押さえておく前提
措置の中身は業種で変わりません。そのうえで、電話窓口で特に関わる点が4つあります。
- 電話もカスハラの場になる。 告示は、店舗等での対面に加えて、電話やSNS等のインターネット上で行われるものも含むとしています(2(1)、p.3)。「長時間に渡る居座りや電話で労働者を拘束すること」「同様の質問を執拗に繰り返すこと」も、社会通念上許容される範囲を超えた言動の例に入っています(2(5)、p.9)。
- 問い合わせる人も「顧客等」。 告示は顧客等の例に「事業主の行う事業に関する内容等に関し問い合わせをする者」と「取引先の担当者」を挙げています(2(4)、p.5)。
- 全員が対象。 措置の対象は、パートタイム労働者や契約社員を含む、雇用する労働者の全てです。派遣オペレーターを受け入れている会社は、派遣先としても自社の従業員と同様に措置を講じる必要があります(2(3)、p.3〜4)。
- 業務の性質も判断の要素。 範囲を超えるかどうかは、言動の目的や経緯、業種・業態、業務の内容・性質、態様・頻度・継続性などを総合的に考慮して判断します(告示2(5)、p.5〜6。解釈事項 問4、p.8)。話を聞くことが仕事のセンターでも、どこから先は聞き続けなくてよいかを決めておくのは、このためです。
日本コンタクトセンター協会(CCAJ)が2024年7〜8月に会員企業50社と従業員2,493名に行った調査では、従業員が受けたカスハラの類型は「暴言・怒声」68%、「クレームの過剰な繰り返し」52%、「話のすり替え・揚げ足取り・執拗な責め立て」51%が上位で、「長時間拘束」も48%ありました(調査結果 p.6。何がカスハラかの判別は回答者に委ねた調査です)。カスハラを受けたときの対応は「話を聞きつづけた」64%、「謝りつづけた」48%が上位で、「自ら対応を終了した」は32%でした(p.8)。
電話の場面別:公的資料の対応例と、自社で決めること
厚生労働省の業種別マニュアルはスーパーマーケット業編と宅配業編で、コールセンター編はありません(業種別カスタマーハラスメント対策の取組支援、2026年9月28日確認)。電話窓口の対応例は、告示と厚生労働省の企業マニュアル(令和8年度改訂版)、公表された裁判例から拾えます。表は、それらの対応例を編集部が電話の場面ごとに振り分けたものです(企業マニュアルの大声への対応例は、対面と電話を分けずに書かれています)。右の列は、その対応例を自社で使うために決めておく点で、これも編集部の整理です。
| 電話の場面 | 公的資料の対応例 | 自社で決めること |
|---|---|---|
| 怒鳴る・暴言が続く | 大声を張り上げる行為はやめるよう求め、複数名で対応する(企業マニュアル p.29)。裁判例の事案では、大声のときはヘッドセットを外す・転送することが認められていた | 注意を何回伝えたら次へ進むか、ヘッドセットを外してよい場面 |
| 性的な発言 | 裁判例の事案では、指示を待たずに直ちにスーパーバイザーへ転送し、同じ日の同じ人物からの2回目以降はオペレーターの判断で即切断してよいとされていた | 転送先と、オペレーターが自分の判断で切ってよい条件 |
| 長時間の電話(拘束) | 応じられないことを明確に告げたうえで、膠着してから一定時間(30分程度)を超えたら電話を切る(企業マニュアル p.29) | 何分で区切るか、起算点、切る前に伝えること |
| 同じ内容で何度もかけてくる | 注意し、次回は対応できない旨を伝える。続けば連絡先をリスト化して通話内容を記録し、窓口を一本化する。あらかじめ対応できる時間を伝える(企業マニュアル p.29〜30) | 回数の数え方、窓口を一本化したときの担当、着信の扱い |
| その場で答えが出ない | 一度電話を切り、後日電話等で会社としての対応方針を伝えることも考えられる(企業マニュアル p.26)。途中で周囲と相談するときは必ず保留機能を使う(p.27) | 折り返しの期限と、誰の名前で方針を伝えるか |
| 脅迫・犯罪に当たり得る言動 | 警察へ通報する(告示 p.15)。特に悪質なものには、警告文の発出、法令の制限内でサービスの提供等をしないことなども対処の例(告示4(4)、p.22〜23) | 通報を判断する人、サービスの停止を決める部署 |
表の裁判例は、厚生労働省のサイトと企業マニュアル(p.16〜17)で紹介されている東京高裁令和4年11月22日判決です。コールセンターで視聴者からわいせつ発言や暴言を受けた従業員が、雇用主に安全配慮義務違反があったとして損害賠償を求めました。雇用主は対応手順を作って周知し、電話によるメンタルヘルス相談や面接によるカウンセリング、ストレスチェックの体制も整えていたことなどから、判決は安全配慮義務違反を認めませんでした。ほかの裁判例はカスハラ事例集で整理しています。
電話の場面でも、要求の中身そのものは正当なことがあります。障害者が不当な差別的取扱いをしないよう求めることや、社会的障壁の除去を求める意思を表明すること自体はカスハラに当たらない、と告示は明記しています(2(1)、p.3)。対策を講じるときは、消費者法制が定める消費者の権利にも留意するよう求めています(4 柱書、p.11)。線引きの考え方は正当なクレームとカスハラの違いで扱っています。
通話を終える基準の決め方
告示が示す例は、「十分な説明を行った上で」「なお繰り返しの要求が続く場合には」「一定の時間の経過をもって」電話を切る、という順序になっています(p.15)。何分と決めるかは告示にはなく、各社が決めます。
電話窓口に関わる時間の目安として公表されているのは、次の2つです。この2つは意味が違います。
- 厚生労働省の企業マニュアル:30分程度。 応じられないことを明確に告げたあと、膠着状態に至ってから一定時間(30分程度)を超えたら電話を切る、という対応例です。マニュアルに書かれた対応時間(この30分と、対面で退去を求めるまでの計1時間程度)は「あくまで一例」で、業種・業態も踏まえて各企業で決めるものとされています(p.29〜30)。
- CCAJのガイドライン:長時間拘束は1時間以上。 業界団体のガイドラインは、類型ごとのカスハラの判定ラインとして「長時間拘束は1時間以上、リピートは3回以上」を示しています(ガイドライン案内ページ)。ガイドライン本体は申請して取得する資料で、この記事は案内ページに書かれた範囲で紹介しています。
前者は切る時点の目安で、膠着してからの時間を数えます。後者は、案内ページの「判定ライン」という書き方から読む限り、ある電話を長時間拘束の類型として判定する目安です(編集部の読み)。どちらも法令が定めた数字ではありません。起算点や前提などの詳細は、それぞれの原資料で確かめてください。企業マニュアルは、業界ごとのマニュアルやガイドラインを参考にすることも考えられるとしています(p.45)。
編集部は、切電の基準に少なくとも次の4つを書いておくことを勧めます。
- 切る前にオペレーターが済ませること(説明を尽くした、応じられないことを告げた)
- 時間または回数の目安と、数え始める時点
- 切る前に伝えること(これ以上は対応できない旨、以後の窓口)
- オペレーター自身の判断で切ってよい場面と、スーパーバイザーの判断を待つ場面
電話を切る基準とその場でしないことは、コールセンター以外の職場も含めてカスハラの電話対応で詳しく扱っています。
4つ目は、裁判例の事案で手順に書かれていた点です。性的な発言の2回目以降のように、判断を待たずに切ってよい場面を決めておくと、オペレーターが一人で聞き続ける時間を短くできます。
スーパーバイザーへの引き継ぎ
告示は対処の内容の例として、労働者から管理監督者等へ直ちに報告して指示を仰ぐこと、可能な限り一人で対応させないこと、必要に応じて管理監督者等が代わりに対応することを挙げています(4(1)ロ、p.14)。コールセンターでは、スーパーバイザー(SV)への転送や、SVが通話を代わる運用がこれに当たります。企業マニュアルは、電話では基本的に第一受信者が責任を持ち、問い合わせ案件をたらい回しにしないよう勧めています(p.27)。
決めておくのは、どの場面で転送するか、SVが不在や手一杯のときの次の引き継ぎ先、転送したことを誰が記録するかです。CCAJのガイドラインは、コールセンター特有の対処法の一つに、技術的な対処としてのアラート機能を挙げています(案内ページ)。
相談の受け付けも、センターの中で完結させてかまいません。カスハラの相談は、その場ですぐ相談することや現場に精通した上司に相談することが適切な場合もあるため、他のハラスメントの窓口と一体でなくてよく、上司に当たる管理監督者等を担当者に定めることも考えられるとされています(解釈事項 問11、p.16)。窓口の組み方はカスハラ相談窓口の作り方で扱っています。
録音と「録音しています」の告知
録音・録画は、告示が挙げる対処の内容の例の一つで、個人情報保護法等を遵守し、顧客等の個人情報を適切に取り扱うこととされています(4(1)ロ、p.14〜15)。企業マニュアルは、電話では通話内容を録音できるようにしておくことを勧めています(p.27)。
通話の冒頭の自動音声などで録音を告知するかどうかは、各社が決めます。解釈事項は、個人情報保護法上の利用目的の通知・公表の義務は、録音していることをその場で伝える義務まで必ずしも含まないとしています。同じ回答は、偽りその他不正の手段による個人情報の取得が禁じられていることにも留意するよう求めています(問10、p.15)。録音を事実確認に使う場合は、その使い方を利用目的としてできる限り特定し、通知または公表しておく必要があります(問9、p.14)。一方、CCAJのガイドラインは、未然防止の対処法の例に録音通知を挙げています(案内ページ)。録音を事実確認に使う場合の利用目的の書き方や、同意を得ない録音の扱いは、カスハラの証拠・記録の残し方で整理しています。方針を決めるときは弁護士にも確かめてください。