電話でのカスハラも、2026年10月1日から事業主に義務となった措置の対象です(労働施策総合推進法第33条第1項、令和8年厚生労働省告示第51号 2(1)、p.3)。告示が対処の内容の例に挙げる電話の切り方は、「労働者から十分な説明を行った上で、なお繰り返しの要求が続く場合には、一定の時間の経過をもって」電話を切るというもので、何分で切るかは会社が決めて従業員に周知します(p.13〜15)。その場では、事実を確かめる前に会社の非を認めない、その場しのぎの回答をしない、一人で抱え込まない、周りに相談するときは保留にする、といった点を厚生労働省や東京都の資料が挙げています。
この記事は、店舗・事務所・窓口で、専任のオペレーターではない従業員が電話を受ける場面に絞ります。スーパーバイザーへの引き継ぎや在宅オペレーター、委託先との分担など、電話窓口を運営する組織の論点はコールセンターのカスハラ対策で、対面も含めた初動はカスハラが発生したら?初動対応で扱っています。
電話のカスハラで、会社が決めておくこと
告示は、カスハラには店舗等での対面のものに加えて、電話やSNS等のインターネット上で行われるものも含まれるとしています(2(1)、p.3)。社会通念上許容される範囲を超えた言動の例には、「同様の質問を執拗に繰り返すこと」「長時間に渡る居座りや電話で労働者を拘束すること」も入っています(2(5)、p.9)。
事業主が講じなければならない措置の一つは、カスハラの内容と、あらかじめ定めた対処の内容を、管理監督者を含む労働者に周知することです(告示4(1)ロ、p.13)。電話を切ることは、この対処の内容の例の一つです。告示は、例は限定列挙ではなく、各事業主が労働者の状況等の実態に応じて定めるものとしています(p.14)。
厚生労働省の解釈事項(2026年9月30日改訂)は、改正法は事業主に措置を義務付けるもので、事業主が何らかの措置を行う法的な権利や権限を新たに設けるものではないとしています(問17、p.22)。電話を切る場面も、会社が自社の対処の内容として定め、周知しておくものです。
解釈事項は、対処の内容を、社外の人と接する機会があるか否かを問わず全ての労働者に周知する必要があるとしています(問8の更問、p.13)。アルバイトやパートタイムの従業員を含め、電話を取りうる人全員に届いているかを確かめておきます。
電話を切る基準
告示の例には、電話を切る前に満たす条件が3つ書かれています(p.15)。
- 労働者から十分な説明を行った
- なお繰り返しの要求が続いている
- 一定の時間が経過した
厚生労働省の企業マニュアル(令和8年度改訂版)は、長時間の電話による拘束への対応例として、対応できない理由を説明し、応じられないことを明確に告げたあと、膠着状態に至ってから一定時間(30分程度)を超える場合は電話を切る、としています。複数回電話がかかってくる場合は、あらかじめ対応できる時間を伝えて、それ以上に長い対応はしないとしています(p.29〜30)。
この30分は法令の数字ではありません。企業マニュアルは、記載の対応時間は「あくまで一例」で、具体的な対応時間は業種・業態も踏まえて各企業で検討のうえ決定すべきとしています(p.30)。厚生労働省のスーパーマーケット業編も、十分な説明のうえでなお要求が続く時点から30分程度を目安としつつ、「単に時間が30分以上経過したということのみで判断しないように注意しましょう」としています(p.16)。東京都が公開している事業者マニュアルのひな形(Word形式)は、打ち切る時間を「○○分」と空欄にしており、会社が自社の数字を書き込む形です(5(4)⑥)。
時間の目安は、危険なときに待つためのものではありません。企業マニュアルは、身の危険を感じた際はためらわず警察への通報等をすることが重要で、企業が定めた対応時間に達しないと次のステップに進めないわけではないとしています(p.30)。告示も、暴行、傷害、脅迫などの犯罪に該当し得る言動は警察へ通報することを対処の内容の例に挙げています(p.15)。
従業員が一人で電話を受ける時間帯がある職場もあります。解釈事項は、従業員が1名の店舗の対処の内容の例として、十分な説明のうえでなお要求が続けば一定の時間の経過をもって電話を切ること、犯罪に該当し得る言動は警察へ通報すること、現場対応が困難なときは本社・本部等へ情報共有して指示を仰ぐことを挙げています(問14、p.19)。
編集部は、電話を受ける人に渡す対処の内容に、少なくとも次の5点を書いておくことを勧めます。
- 何分(または何回)で切るか、どの時点から数えるか
- 切る前に伝えること(要求に応じられないこと、これで電話を終えること)
- 時間を待たずに切ってよい場面と、警察へ通報する場面
- 電話を代わってもらう相手と、その人が不在のときの連絡先
- 切ったあとの報告先
2点目は、東京都のひな形が、時間を超えた場合は「要求に応じられない旨を伝え、対応を打ち切る(電話を切る)」としていることに沿ったものです(5(4)⑥)。
業種によっては、電話を切ることそのものに気をつける点があります。告示は、各業法等によりサービス提供の義務等が定められている場合や、サービスが途絶すると顧客等の生命や心身の健康に重大な影響が及ぶ場合等があることに留意して、適切に対応する必要があるとしています(4 柱書、p.12)。電話が手続きや生活に欠かせない窓口になっている職場では、切ったあとの連絡手段も含めて決めておきます。
電話の流れと、その場でしないこと
次の表は、公的資料が挙げる「しないこと」と、「すること」として書かれている内容の裏返しを、電話の流れに沿って編集部が並べたものです。企業マニュアルの共通の留意点は対面・電話を問わない内容で、東京都のひな形は会社が自社に合わせて直して使う前提の書式です。
| 電話の場面 | しないこと | 公的資料の記載 |
|---|---|---|
| 話を聞く | 途中で遮る、反論する。正当な申入れをすぐにカスハラと決めつける。クレーマー扱いする | 企業マニュアル p.25、東京都ひな形4(1)② |
| 謝る | 状況を把握できていない段階で、会社として非を認めたような発言をする。事実を確認しないまま要求を認める | 企業マニュアル p.25、東京都ひな形4(2)③ |
| 答える | その場しのぎの回答をする。できることとできないことをはっきりさせず、過大な期待を抱かせる。早く解決しようとして、その場逃れの安易な妥協をする | 企業マニュアル p.26、東京都ひな形5(4)⑤ |
| 周りに相談する | 保留にしないまま相談する(社内での相談内容が相手に漏れる) | 企業マニュアル p.27 |
| 担当を代わる | たらい回しにする。要求が著しく相当性を欠くのに一人で抱え込む | 企業マニュアル p.27、東京都ひな形4(2)④ |
| 暴言を受ける | 暴言で返す。不必要な議論に立ち入る。執拗に人格を責める言葉を真正面から受け止める | 東京都ひな形5(4)①、4(1)⑤ |
| 業務と関係ないことを聞かれる | 個人的な情報を答える | スーパーマーケット業編 p.16 |
| 電話を切る | 時間を超えて打ち切るときに、応じられないことを伝えないまま切る | 東京都ひな形5(4)⑥(「要求に応じられない旨を伝え」て打ち切るとしている) |
「しないこと」の多くは、「すること」と対になっています。企業マニュアルは、対象を限定して謝る、遮らずにひと通り事情を聞く、メモを取りながら聞いて復唱して確認する、対応できないことははっきり断る、を挙げています(p.25〜26)。東京都のひな形も、電話では、初期対応した従業員による対応を原則としつつ、顧客等の要求が著しく相当性を欠く内容であれば、一人で抱え込まずに対応者を上司に代わるとしています(4(2)④)。
公的資料にある言い方
その場で使う言い方は、公的資料にもいくつか書かれています。次は、その文言をそのまま抜き出したものです。対面の場面の例も含まれるので、自社の対処の内容に入れるときは、電話で使えるかを確かめて言い回しを合わせてください。
- 対象を限定して謝る:「この度は不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ありません」(企業マニュアル p.25)、「お客様に嫌なお気持ちを与えてしまい誠に申し訳ございません。」(東京都ひな形4(2)③)
- 確認のために待ってもらう:「上長に確認いたしますので、大変恐れ入りますが、少々お待ちいただいてもよろしいでしょうか。」(企業マニュアル p.26)
- 怒鳴られたとき:「それは、私に対して言っていますか。」「そのように怒鳴られると怖いです。」(スーパーマーケット業編 p.15。自分の気持ちを率直に伝え、冷静になってもらう例)
- 業務と関係のないことを聞かれたとき:「会社の規則で業務と関係ないことは話してはいけないことになっておりますので申し上げられません。」(スーパーマーケット業編 p.16)
- 要求が繰り返されるとき:「これ以上の対応はできない」と明確に意思表示する(企業マニュアル p.28。契約等で想定するサービスを著しく超える要求への対応例)