東京都カスハラ防止条例とは?国の法律との違いと、都内の会社が国の措置に足すもの

東京都カスハラ防止条例は、何人もカスハラを行ってはならないと定め、事業者には指針に基づく体制の整備や手引の作成を努力義務として求める条例です。罰則はありません。2026年10月1日に始まった国の措置義務との違い、都の指針の13の取組と国の10の措置の対応、都内の会社が国の措置に足すものを、条文と指針で整理します。

更新
2026年10月17日
法令・資料の確認
2026年9月28日
読了の目安
11分
目次
  1. 条例は誰に何を求めているか
  2. 国の法律との違い
  3. 都の指針「事業者の取組」13項目と、国の10の措置の対応
  4. 都内の会社が、国の措置に足すもの
  5. 都外に本社がある会社、都外で働く人
  6. 東京都の支援
  7. よくある質問
  8. 次の一歩
  9. 参考資料

東京都カスタマー・ハラスメント防止条例は、2025年4月1日から施行されている東京都の条例です。「何人も」カスハラを行ってはならないと定め、都内で事業を行う事業者には、都の指針に基づいて体制の整備・被害を受けた人への配慮・手引(マニュアル)の作成などを講ずるよう努力義務として求めています。罰則はありません。2026年10月1日からは、国の法律による措置義務も全国の事業主にかかっています。都内の会社は両方の対象になるので、国の措置を軸に体制を作り、都の指針にだけある点を足すのが実務の近道です。

2026年9月28日時点の内容です。国の改正規定については、2026年10月1日施行版の条文と、厚生労働省が公表した指針に基づいています。

条例は誰に何を求めているか

条例は全14条と附則だけの短いものです(東京都例規集)。求めている内容と、その強さは次のとおりです。

  • 何人も(禁止):あらゆる場において、カスハラを行ってはならない(第4条)
  • 顧客等(努力義務):カスハラの問題への関心と理解を深め、就業者への言動に必要な注意を払うよう努める(第7条)
  • 就業者(努力義務):顧客等の権利を尊重し、カスハラの防止に資する行動をとるよう努める。事業者の取組に協力し、事業者が作った手引を守るよう努める(第8条、第14条第2項)
  • 事業者(努力義務):防止に主体的かつ積極的に取り組む。就業者がカスハラを受けたら、速やかに安全を確保し、行為者に中止の申入れその他の必要かつ適切な措置を講ずる。自社の就業者が顧客等としてカスハラを行わないよう必要な措置を講ずる(第9条第1項〜第3項)。指針に基づき、必要な体制の整備、被害を受けた就業者への配慮、手引の作成その他の措置を講ずる(第14条第1項)
  • 東京都:情報の提供、啓発・教育、相談・助言などの施策を行い(第6条、第13条)、指針を定めて公表する(第11条)

事業者の定めは、どれも「努めなければならない」という書き方です。あわせて条例は、適用にあたって顧客等の権利を不当に侵害しないよう留意することも定めています(第5条)。

「禁止」とありますが、都の指針は、禁止規定に違反した場合の罰則規定はないと説明しています。そのうえで、行為の内容によっては、条例とは関係なく刑法等による処罰や、民法上の損害賠償の対象になる可能性があるとしています(都の指針 p.1〜2)。条例の本文にも、罰則や、事業者への勧告・公表の規定は置かれていません。罪名と法定刑、罰則のある他の自治体の条例は、カスハラに罰則はあるかで整理しています。

国の法律との違い

国の側では、改正労働施策総合推進法の第33条第1項が事業主に措置を講じる義務を定め、厚生労働省の指針(令和8年厚生労働省告示第51号、以下「告示51号」)がその中身を示します。施行日は政令で2026年10月1日と定められています(令和8年政令第17号)。何が義務になったかの詳細は「カスハラ対策の義務化とは」で扱っています。

観点 国(法律・告示51号) 東京都(条例・都の指針)
いつから 2026年10月1日 2025年4月1日
対象の会社 すべての事業主。法律に規模の要件はない(第33条第1項) 都内で事業を行う事業者。都外に本社があっても都内に支店等があれば含む(第2条第1号、指針 p.3〜4)
守られる人 雇用する労働者の全員。パート・契約社員を含み、派遣先は派遣労働者にも措置を講じる(告示51号 2(3)、p.3〜4) 「就業者」。従業員のほか、経営者、個人事業主、フリーランス、ボランティアなども含む(第2条第2号、指針 p.4〜5)
会社に求める強さ 措置義務:「講じなければならない」(第33条第1項) 努力義務:「講ずるよう努めなければならない」(第9条、第14条第1項)
行為者への定め 顧客等は必要な注意を払うよう努める(第34条第5項) 何人も行ってはならない(第4条)。顧客等は注意を払うよう努める(第7条)
会社が守らないとき 助言・指導・勧告、勧告に従わなければ公表(第42条)。報告の求めに応じない・虚偽の報告は20万円以下の過料(第45条第1項、第51条) 罰則も、勧告・公表の定めもない

国の20万円以下の過料は、報告の求めに対する違反への定めで、措置を講じていないこと自体に科されるものではありません(第51条)。

カスハラの定義の言い方も違います。国は「社会通念上許容される範囲を超えた」顧客等の言動、条例は「著しい迷惑行為」が定義の軸です。定義の比較は「カスハラとは」にまとめています。国の措置義務の対象になるのは、国の定義によるカスハラです。

都の指針「事業者の取組」13項目と、国の10の措置の対応

条例第14条の「指針に基づき」の中身は、都の指針の「第5 事業者の取組に関する事項」にある13項目です(p.18〜26)。これを告示51号の措置と並べると、多くは国の義務と重なり、いくつかは国では義務ではない取組にあたります。国の措置の番号①〜⑩は、厚生労働省のリーフレット(詳細版) p.2 と「カスハラ対策の義務化とは」の番号に合わせています。

都の指針 第5 の取組(頁) 告示51号で対応する箇所 国での位置づけ
1 基本方針・基本姿勢の明確化と、就業者と外部への周知(p.19) ① 4(1)イ(p.12〜13) 社内への周知は義務。顧客等への周知は「効果的と考えられる」取組
2 自社の就業者がカスハラを行わない方針の明確化と周知(p.19〜20) 6(4)(p.29)、法第34条第2項 望ましい取組。自社の労働者への注意の配慮は努力義務
3 相談窓口の設置(p.20) ③ 4(2)イ(p.16) 義務
4 適切な相談対応の実施(p.20〜21) ④ 4(2)ロ(p.16〜17) 義務
5 相談者のプライバシー保護と周知(p.21) ⑨ 4(5)イ(p.23〜24) 義務
6 相談を理由とした不利益な取扱いをしない旨の周知(p.21) ⑩ 4(5)ロ(p.24〜25)、法第33条第2項 義務。不利益な取扱いは法律で禁止
7 現場での初期対応の方法や手順の作成(p.21〜22) ② 4(1)ロ(p.13〜15) 対処の内容を定めて周知するのが義務。マニュアルという形は例示
8 内部手続(報告・相談、指示・助言)の方法や手順の作成(p.22〜24) ② 4(1)ロ の対処の例、⑧ 4(4)(p.22〜23) 対処の内容の例(管理監督者への報告、本社・本部への情報共有)。悪質なものへの対処の体制整備は義務
9 事実関係の正確な確認と事案への対応(p.24〜25) ⑤ 4(3)イ(p.18〜19)、⑧ 4(4) 事実確認は義務。出入り禁止などは、悪質なものへの対処の例
10 就業者の安全の確保(p.25) ⑥ 4(3)ロ(p.19〜20) 義務(管理監督者が代わって対応する、引き離すなどは例)
11 就業者の精神面及び身体面への配慮(p.25) ⑥ 4(3)ロ 義務(メンタルヘルス不調への相談対応などは例)
12 就業者への教育・研修等(p.25〜26) 4(1)イ・ロの周知の方法の例、6(1)(p.27〜28)、法第34条第2項 措置では周知の方法の例。対応力を高める研修は望ましい取組。法第34条第2項の「研修の実施その他の必要な配慮」は努力義務
13 再発防止に向けた取組(p.26) ⑦ 4(3)ハ(p.20〜22)、6(2)(p.28) 再発防止の措置は義務。アンケート等による運用の見直しは望ましい取組

告示51号と都の指針の本文をもとに編集部が作成。頁はいずれも資料に印字された頁番号です。都の指針の取組は、条例第14条第1項の努力義務に基づくものです。

逆に、国の措置のうち⑧(特に悪質と考えられるものへの対処の方針を定めて周知し、対処できる体制を整える)には、都の13項目に独立した見出しがありません。都の指針では、9と10の対応例に、退去の命令や出入り禁止、商品・サービスの提供の停止の通告が出てきます(p.24〜25)。国では方針と体制の整備そのものが義務なので、都のマニュアルやひな形を使っている会社は、この点を確かめておくと安心です。

都内の会社が、国の措置に足すもの

国の10の措置は、都の13項目の多くと重なります。そのうえで、都の条例・指針を踏まえて足すと整合がとりやすいのは、次の5点です。いずれも国の措置義務ではなく、都の条例の努力義務と指針に基づく取組です。

  1. 手引(マニュアル)を作る:条例は手引の作成を事業者の努力義務に挙げています(第14条第1項)。国では、対処の内容をマニュアルに書いて周知することは、措置を講じていると認められる例の一つです(告示51号 4(1)ロ②)。作り方は「カスハラ対応マニュアルの作り方」にまとめています
  2. 基本方針を社外にも示す:都の指針は、基本方針を就業者と外部に周知するとしています(第5の1、p.19)。国では、顧客等への周知は「効果的と考えられる」取組です(告示51号 4(1)イ)。社外に出す書き方は「カスハラの方針の例文」を参照してください
  3. 自社の従業員が加害側にならない方針を示す:条例は、自社の就業者が顧客等としてカスハラを行わないよう措置を講ずることを努力義務としています(第9条第3項)。都の指針は、取引先等に無理な要求をしないというメッセージの周知や、厳正に対処する旨を就業規則等に定めることを対応例に挙げています(p.19)。国の解釈事項は、既存の懲戒規定等で必要な措置を講じられるなら、カスハラ専用の規定を必ずしも新設しなくてよいとしています(解釈事項 問18、p.23)
  4. 雇用していない人も同じように扱う:都の指針は、派遣労働者、無償ボランティア、インターンシップ生、フランチャイズ加盟店の経営者・従業員など、雇用関係のない就業者も、雇用関係のある就業者と同様に取り扱うことが必要としています(p.16)。国では、派遣労働者は派遣先も措置の対象とし(告示51号 2(3))、それ以外の人に同様の方針を示すことは望ましい取組です(告示51号 7、p.29〜30)
  5. 研修を行う:都の指針は、具体的な対応についての教育・研修を行う必要があるとし、可能な限り全員が受講でき、定期的に実施することが望ましいとしています(第5の12、p.25〜26)。国では研修は措置の方法の例示です。法律は、カスハラの問題への労働者の関心と理解を深め、他社の労働者への言動に注意を払うよう「研修の実施その他の必要な配慮」をすることを努力義務としています(法第34条第2項)。位置づけの詳細は「カスハラ研修は義務か」にあります

方針やマニュアルでカスハラを定義するときは、国と都のどちらの言い方で書くかも決めておきます。国の措置義務の対象は国の定義なので、国の定義を軸にし、都の定義を併記する書き方が考えられます(編集部の提案)。

都外に本社がある会社、都外で働く人

条例の「事業者」は都内で事業を行う者です。都の指針は、都内に本社がある企業のほか、都外に本社があって都内に支店等の事務所・事業所がある企業も想定しています(p.3〜4)。

「就業者」は都内で業務に従事する人ですが、事業者の事業に関連して都外で業務を行う人も、合理的な関連性があれば含まれます。都の指針は、都内企業の社員が都外でテレワークをする場合や、都外のコールセンターの社員が都内の事業者への問い合わせに電話で対応する場合を例に挙げています。そのうえで、判断しにくい人も含めて就業者を広く捉え、同様に扱うことが望ましいとしています(p.5〜6)。

国の措置義務は、事業所の場所を問わず、雇用するすべての労働者が対象です。全国に拠点がある会社は、国の措置を全社共通で整え、都内の拠点については上の5点を加える形にすると、拠点ごとに別の仕組みを作らずにすみます。

東京都の支援

東京都カスタマーハラスメント総合相談窓口

都内の事業者、都内で働く就業者、顧客等が無料で相談できます。電話は平日9時〜17時、相談フォームは24時間受け付けています。この窓口はカスハラ防止対策についての一般的な考え方を示す相談機関で、個別の事案の法的判断や、事業者等との交渉は行わないとされています(総合相談窓口、2026年9月24日確認)。

企業向け奨励金(令和8年度第2回募集)

奨励金は募集回ごとに要項が変わります。以下は、2026年9月8日の東京都 報道発表で示された令和8年度第2回募集の内容です(2026年9月24日確認)。

  • 対象の取組:カスハラ対策マニュアルの作成に加え、録音・録画環境の整備、AIを活用したシステム等の導入、外部人材の活用のいずれか1つ。条例の施行日(2025年4月1日)以降に行ったもの
  • 支給額:40万円
  • 対象:都内中小企業等(常時雇用する従業員300人以下)
  • 事前エントリー:2026年10月23日(金)〜11月6日(金)。募集規模は5,000件で、先着順ではなく、支給申請は抽選で複数回に分けて受け付けます
  • 募集の終了:都は、本事業の募集は今回で終了するとしています

対象にはほかにも要件があり、募集要項は特設サイトに後日掲載されます(2026年9月27日の取得時点で未掲載)。東京しごと財団の奨励金のページ(2026年7月9日更新)は、申請を電子申請システム「Jグランツ」で受け付け、利用にはGビズIDプライムが必要としています。第2回の申請方法は要項で確かめてください。中小企業向けの準備の進め方は「カスハラ対策 中小企業」にまとめています。取組の1つ「AIを活用したシステム等の導入」とハラスメント対策室の関係は「東京都の奨励金とハラスメント対策室」で説明しています。

奨励金の要件は、国の措置義務とは別のものです。マニュアルを作って奨励金を受けても、国の10の措置がそろっているかは別に確かめます。

よくある質問

東京都の条例に違反すると罰則はありますか

条例には罰則の規定がありません(都の指針 p.1)。事業者への勧告や公表の規定もありません。ただし、行為の内容によっては、条例とは関係なく刑法等で処罰されたり、民法上の損害賠償を請求されたりする可能性があると、都の指針は説明しています(p.1〜2)。

国の法律が施行されて、東京都の条例は関係なくなりましたか

2026年10月1日以降も、都内で事業を行う会社には条例がかかります。条例の附則には、社会環境の変化などを踏まえて必要があれば規定を検討する見直し規定があり、都の指針は国の法制化などを見込んで設けたものと説明しています(附則第2項、指針 p.27)。東京都例規集に載っている沿革は、2026年9月24日の取得時点で制定時の1件だけです。

都のひな形でマニュアルを作れば、国の義務も果たせますか

ひな形はたたき台として使えますが、そのままでは国の措置と対応しているかが確かめられません。都のひな形は国の告示51号より前に作られているため、国の10の措置と照らし合わせる作業が要ります。照らし合わせる手順は「カスハラ対応マニュアルの作り方」にあります。

次の一歩

都内の会社がまず確かめるのは、国の10の措置がそろっているかです。国の措置は都の13項目の多くと重なるので、そのうえで上の5点を足します。対応状況チェックは登録不要で、自社の現状をその場で確かめられます。

参考資料

自社に残っている対策と、それぞれの進め方を出す

登録は不要です。回答は送信されません。

自社の対応状況を無料で確認する

関連する記事