東京都カスタマー・ハラスメント防止条例は、2025年4月1日から施行されている東京都の条例です。「何人も」カスハラを行ってはならないと定め、都内で事業を行う事業者には、都の指針に基づいて体制の整備・被害を受けた人への配慮・手引(マニュアル)の作成などを講ずるよう努力義務として求めています。罰則はありません。2026年10月1日からは、国の法律による措置義務も全国の事業主にかかっています。都内の会社は両方の対象になるので、国の措置を軸に体制を作り、都の指針にだけある点を足すのが実務の近道です。
2026年9月28日時点の内容です。国の改正規定については、2026年10月1日施行版の条文と、厚生労働省が公表した指針に基づいています。
条例は誰に何を求めているか
条例は全14条と附則だけの短いものです(東京都例規集)。求めている内容と、その強さは次のとおりです。
- 何人も(禁止):あらゆる場において、カスハラを行ってはならない(第4条)
- 顧客等(努力義務):カスハラの問題への関心と理解を深め、就業者への言動に必要な注意を払うよう努める(第7条)
- 就業者(努力義務):顧客等の権利を尊重し、カスハラの防止に資する行動をとるよう努める。事業者の取組に協力し、事業者が作った手引を守るよう努める(第8条、第14条第2項)
- 事業者(努力義務):防止に主体的かつ積極的に取り組む。就業者がカスハラを受けたら、速やかに安全を確保し、行為者に中止の申入れその他の必要かつ適切な措置を講ずる。自社の就業者が顧客等としてカスハラを行わないよう必要な措置を講ずる(第9条第1項〜第3項)。指針に基づき、必要な体制の整備、被害を受けた就業者への配慮、手引の作成その他の措置を講ずる(第14条第1項)
- 東京都:情報の提供、啓発・教育、相談・助言などの施策を行い(第6条、第13条)、指針を定めて公表する(第11条)
事業者の定めは、どれも「努めなければならない」という書き方です。あわせて条例は、適用にあたって顧客等の権利を不当に侵害しないよう留意することも定めています(第5条)。
「禁止」とありますが、都の指針は、禁止規定に違反した場合の罰則規定はないと説明しています。そのうえで、行為の内容によっては、条例とは関係なく刑法等による処罰や、民法上の損害賠償の対象になる可能性があるとしています(都の指針 p.1〜2)。条例の本文にも、罰則や、事業者への勧告・公表の規定は置かれていません。罪名と法定刑、罰則のある他の自治体の条例は、カスハラに罰則はあるかで整理しています。
国の法律との違い
国の側では、改正労働施策総合推進法の第33条第1項が事業主に措置を講じる義務を定め、厚生労働省の指針(令和8年厚生労働省告示第51号、以下「告示51号」)がその中身を示します。施行日は政令で2026年10月1日と定められています(令和8年政令第17号)。何が義務になったかの詳細は「カスハラ対策の義務化とは」で扱っています。
| 観点 | 国(法律・告示51号) | 東京都(条例・都の指針) |
|---|---|---|
| いつから | 2026年10月1日 | 2025年4月1日 |
| 対象の会社 | すべての事業主。法律に規模の要件はない(第33条第1項) | 都内で事業を行う事業者。都外に本社があっても都内に支店等があれば含む(第2条第1号、指針 p.3〜4) |
| 守られる人 | 雇用する労働者の全員。パート・契約社員を含み、派遣先は派遣労働者にも措置を講じる(告示51号 2(3)、p.3〜4) | 「就業者」。従業員のほか、経営者、個人事業主、フリーランス、ボランティアなども含む(第2条第2号、指針 p.4〜5) |
| 会社に求める強さ | 措置義務:「講じなければならない」(第33条第1項) | 努力義務:「講ずるよう努めなければならない」(第9条、第14条第1項) |
| 行為者への定め | 顧客等は必要な注意を払うよう努める(第34条第5項) | 何人も行ってはならない(第4条)。顧客等は注意を払うよう努める(第7条) |
| 会社が守らないとき | 助言・指導・勧告、勧告に従わなければ公表(第42条)。報告の求めに応じない・虚偽の報告は20万円以下の過料(第45条第1項、第51条) | 罰則も、勧告・公表の定めもない |
国の20万円以下の過料は、報告の求めに対する違反への定めで、措置を講じていないこと自体に科されるものではありません(第51条)。
カスハラの定義の言い方も違います。国は「社会通念上許容される範囲を超えた」顧客等の言動、条例は「著しい迷惑行為」が定義の軸です。定義の比較は「カスハラとは」にまとめています。国の措置義務の対象になるのは、国の定義によるカスハラです。
都の指針「事業者の取組」13項目と、国の10の措置の対応
条例第14条の「指針に基づき」の中身は、都の指針の「第5 事業者の取組に関する事項」にある13項目です(p.18〜26)。これを告示51号の措置と並べると、多くは国の義務と重なり、いくつかは国では義務ではない取組にあたります。国の措置の番号①〜⑩は、厚生労働省のリーフレット(詳細版) p.2 と「カスハラ対策の義務化とは」の番号に合わせています。
| 都の指針 第5 の取組(頁) | 告示51号で対応する箇所 | 国での位置づけ |
|---|---|---|
| 1 基本方針・基本姿勢の明確化と、就業者と外部への周知(p.19) | ① 4(1)イ(p.12〜13) | 社内への周知は義務。顧客等への周知は「効果的と考えられる」取組 |
| 2 自社の就業者がカスハラを行わない方針の明確化と周知(p.19〜20) | 6(4)(p.29)、法第34条第2項 | 望ましい取組。自社の労働者への注意の配慮は努力義務 |
| 3 相談窓口の設置(p.20) | ③ 4(2)イ(p.16) | 義務 |
| 4 適切な相談対応の実施(p.20〜21) | ④ 4(2)ロ(p.16〜17) | 義務 |
| 5 相談者のプライバシー保護と周知(p.21) | ⑨ 4(5)イ(p.23〜24) | 義務 |
| 6 相談を理由とした不利益な取扱いをしない旨の周知(p.21) | ⑩ 4(5)ロ(p.24〜25)、法第33条第2項 | 義務。不利益な取扱いは法律で禁止 |
| 7 現場での初期対応の方法や手順の作成(p.21〜22) | ② 4(1)ロ(p.13〜15) | 対処の内容を定めて周知するのが義務。マニュアルという形は例示 |
| 8 内部手続(報告・相談、指示・助言)の方法や手順の作成(p.22〜24) | ② 4(1)ロ の対処の例、⑧ 4(4)(p.22〜23) | 対処の内容の例(管理監督者への報告、本社・本部への情報共有)。悪質なものへの対処の体制整備は義務 |
| 9 事実関係の正確な確認と事案への対応(p.24〜25) | ⑤ 4(3)イ(p.18〜19)、⑧ 4(4) | 事実確認は義務。出入り禁止などは、悪質なものへの対処の例 |
| 10 就業者の安全の確保(p.25) | ⑥ 4(3)ロ(p.19〜20) | 義務(管理監督者が代わって対応する、引き離すなどは例) |
| 11 就業者の精神面及び身体面への配慮(p.25) | ⑥ 4(3)ロ | 義務(メンタルヘルス不調への相談対応などは例) |
| 12 就業者への教育・研修等(p.25〜26) | 4(1)イ・ロの周知の方法の例、6(1)(p.27〜28)、法第34条第2項 | 措置では周知の方法の例。対応力を高める研修は望ましい取組。法第34条第2項の「研修の実施その他の必要な配慮」は努力義務 |
| 13 再発防止に向けた取組(p.26) | ⑦ 4(3)ハ(p.20〜22)、6(2)(p.28) | 再発防止の措置は義務。アンケート等による運用の見直しは望ましい取組 |
告示51号と都の指針の本文をもとに編集部が作成。頁はいずれも資料に印字された頁番号です。都の指針の取組は、条例第14条第1項の努力義務に基づくものです。
逆に、国の措置のうち⑧(特に悪質と考えられるものへの対処の方針を定めて周知し、対処できる体制を整える)には、都の13項目に独立した見出しがありません。都の指針では、9と10の対応例に、退去の命令や出入り禁止、商品・サービスの提供の停止の通告が出てきます(p.24〜25)。国では方針と体制の整備そのものが義務なので、都のマニュアルやひな形を使っている会社は、この点を確かめておくと安心です。