相談窓口の外部委託は、指針が相談窓口の作り方として挙げる3つの例の1つに当たります。義務ではなく、社内に担当者を置く方法と並ぶ選択肢です。
告示が委託の例として挙げるのは「相談への対応」です。方針の明確化と周知、事実関係の確認、被害を受けた人への配慮、再発防止、特に悪質なものへの備え、プライバシー保護と不利益取扱いをしない旨の周知は、委託しても会社に残ります。
そのため外部委託がうまくいくかどうかは、委託先の選び方より先に、何を委託し、相談がどのように会社へ渡るかを契約でどう決めるか次第です。この記事では、その決め方に続けて、費用の決まり方、委託先の種類、契約前の確認、周知までを順に整理します。
外部委託の位置づけを確認する(2026年10月1日から)
2026年10月1日(施行期日を定める政令)から、カスタマーハラスメント(カスハラ)と求職者等へのセクシュアルハラスメント(セクハラ)についても、事業主は「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」などの措置を講じなければならなくなりました。パワーハラスメント(パワハラ)については以前からの義務で、同日から条番号が変わりました。この記事で扱う3つの根拠は次のとおりです(法律は2026年10月1日施行版)。
- カスハラ(顧客等の言動): 労働施策総合推進法 第33条1項。措置の内容は令和8年厚生労働省告示第51号
- 求職者等へのセクハラ(面接・説明会・インターンシップ等での自社労働者による性的な言動): 男女雇用機会均等法 第13条1項。措置の内容は令和8年厚生労働省告示第52号
- パワハラ: 労働施策総合推進法 第31条1項(2026年9月30日までの条番号は第30条の2)。措置の内容は令和2年厚生労働省告示第5号
3つの指針はいずれも、相談窓口を「あらかじめ定め」て周知することを求め、その例として次の3つを挙げています(告示51号 4(2)イ p.16、告示52号 4(2)イ p.11〜12、パワハラ指針 4(2)イ p.7)。
- 相談に対応する担当者をあらかじめ定めること
- 相談に対応するための制度を設けること
- 外部の機関に相談への対応を委託すること
これらは「相談窓口をあらかじめ定めていると認められる例」で、外部委託は例の1つです。外部の窓口を置かなければならないという定めではありません。パワハラ指針のこの箇所は、2026年の改正(令和8年厚生労働省告示第53号)でも改められていません。
指針の語は「窓口を委託する」ではなく「相談への対応を委託する」です。この違いが、次の節で見る「会社に残るもの」につながります。
既存の窓口とまとめることもできます。告示51号は、カスハラの窓口を「職場における他のハラスメントの相談窓口と一体的に設置をすることも考えられる」としています(4(2)イ p.16)。パワハラ指針は、セクハラ等の窓口と一体的に設置し「一元的に相談に応じることのできる体制を整備することが望ましい」としています(5(1) p.10)。前者は「考えられる」、後者は「望ましい」という書き方の違いがあります。
自社の窓口がいまどこまで整っているかは、対応状況のチェックで確認できます。
委託先に任せられること、会社に残ること(措置ごと)
窓口(4(2))以外の措置、つまり方針の明確化と周知(4(1))、相談があった後の事実確認・被害者への配慮・再発防止(4(3))、特に悪質なものへの対処方針と体制(4(4))、プライバシー保護と不利益取扱いをしない旨の周知(4(5))も、告示51号はすべて事業主が「講じなければならない」措置としています(p.12〜25)。外部委託は窓口の実装方法の1つなので、委託してもこれらの措置を講じる主体は会社のままです。
以下は告示51号の措置ごとに、委託先に任せられること・会社に残ること・契約や運用で決めることを並べます。告示が外部委託に触れているのは 4(2)イ の例③だけで、それ以外の「任せられること」と「決めること」は、当社(ハラスメント対策室 編集部)の実務上の整理です。「任せられる」は委託契約に含めうるという意味で、どの委託先もそれを提供しているという意味ではありません。
厚生労働省の相談窓口担当者向け研修資料も、相談の受付(一次対応)は相談窓口が担い、それ以降を窓口がどこまで担うか、どこから人事部門に引き継ぐかは企業によるとしています(スライド7)。
方針を定めて周知する(4(1))
4(1)イ 方針の明確化と労働者への周知・啓発(p.12〜13)/ロ 対処の内容を定め周知(p.13〜15)
- 任せられること: 原則としてない。委託先は会社の方針と対処の内容を前提に受け付ける
- 会社に残ること: 方針と対処の内容を定め、管理監督者を含む労働者に周知・啓発する
- 決めること: 方針・対処の内容を委託先へ渡す時期と、改訂したときの連絡方法
窓口を定め、適切に対応できるようにする(4(2))
4(2)イ 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知(p.16)
- 任せられること: 相談への対応(受付と一次対応)。告示が例③として挙げる
- 会社に残ること: どこを窓口とするかを決めること、労働者への周知
- 決めること: 受付の手段と時間帯、対象者、窓口の名称と案内文。告示の「労働者」はパート・契約社員等を含み、受け入れている派遣労働者も措置の対象になるので、委託先がどこまで受け付けるかを決める
4(2)ロ 担当者が内容や状況に応じ適切に対応できるようにする(p.16〜17)
- 任せられること: 相談員のマニュアルと研修(委託先側の品質)
- 会社に残ること: 窓口の担当者と関係部門が連携できる仕組み
- 決めること: 社内の連携先(誰と、どう連絡するか)。該当するか微妙な相談も広く受ける旨の取り決め
告示52号 4(2)イ 求職者等への窓口の周知(p.11〜12)
- 任せられること: 求職者等からの相談の受付
- 会社に残ること: 窓口を決め、求職者等へ周知する(告示の例: パンフレット、ホームページ等)
- 決めること: 受付の対象(応募者、インターンシップ参加者など)、募集ページに載せる案内文
パワハラ・セクハラの窓口との一体化
- 任せられること: ハラスメント全般の一元的な受付
- 会社に残ること: 一体的に設置するかどうかの決定
- 決めること: 委託範囲をカスハラだけにするか、ハラスメント全般にするか(費用に影響することがある)
相談の後に対応する(4(3))
4(3)イ 事実関係の迅速かつ正確な確認(p.18〜19)
- 任せられること: 相談者からの聴き取りと記録(本人の同意を得て会社へ引き継ぐ)。告示の例②は「相談窓口の担当者、関係部門又は専門の委員会等が、相談者から事実関係を確認すること」を挙げる
- 会社に残ること: 事実確認を行い、判断すること。周囲の労働者からの聴取や録音・録画等の確認、確認が難しいときの調停その他の中立な第三者機関の利用
- 決めること: 引き継ぐ情報の範囲と様式、本人の同意の取り方(次の節)
4(3)ロ 被害を受けた労働者への配慮(p.19〜20)
- 任せられること: 相談者の心理的な相談の受け皿(委託先が提供している場合)
- 会社に残ること: 配慮のための措置の決定と実施(告示の例: 管理監督者が代わって対応する、担当の変更や複数人での対応、配置転換、メンタルヘルス不調への相談対応)
- 決めること: 委託先の支援と会社の措置をどこで切り分けるか
4(3)ハ 再発防止(p.20〜22)
- 任せられること: 相談の傾向の報告
- 会社に残ること: 方針の再周知、原因となった問題の改善などの再発防止の措置
- 決めること: 定期報告に含める集計(件数・種別など個人を特定しない形)
悪質なものへの備え、プライバシー、不利益取扱い(4(4)・4(5))
4(4) 特に悪質と考えられるものへの対処方針と体制(p.22〜23)
- 任せられること: 悪質・危険と思われる相談を受けたときの即時の連絡
- 会社に残ること: 対処の方針を定めて周知し、対処を行える体制を整える(告示の例: 警察への通報、警告文の発出、出入りの禁止など)
- 決めること: 即時連絡の基準、連絡先、時間帯(次の節)
4(5)イ プライバシー保護の措置と周知(p.23〜24)
- 任せられること: 委託先内での守秘、アクセスの制限、記録の保存と削除
- 会社に残ること: 措置を講じ、その旨を労働者に周知する
- 決めること: 守秘義務、再委託の可否、保存期間、契約終了時の返還・削除、漏えい時の連絡
4(5)ロ 相談等を理由に不利益な取扱いをされない旨を定め周知・啓発(p.24〜25)
- 任せられること: 相談を受けるときに、秘密の保持や不利益な取扱いがないことを本人へ伝える運用
- 会社に残ること: 不利益な取扱いをしない旨を定め(就業規則その他の文書等)、周知・啓発し、実際にしない
- 決めること: 委託先が相談者に伝える説明の定型
求職者等からの相談も委託範囲に入れるか
2026年10月1日から、面接や説明会、インターンシップなどで自社の労働者が求職者等に性的な言動をする問題について、求職者等からの相談に応じる体制の整備が事業主の義務になりました(均等法 第13条1項、告示52号 4(2))。相談してくるのは社外の人で、周知の相手も労働者ではなく求職者等です。
告示52号は「求職者等は人事担当者への相談をためらうことも想定されることから、相談窓口の担当者として人事担当者以外の者を指定することも考えられる」としています(4(2)イ p.11)。外部委託はこの考え方に沿う方法の1つです。一方で同じ告示は、窓口の担当者と人事部門が連携できる仕組みを例に挙げています(4(2)ロ p.13)。受付を外に出しても、会社側でつなぐ先は決めておく必要があります。
委託範囲に含めない場合は、求職者等向けの受付を社内に別に用意します。どちらにするかは、見積もりを取る前に決めておくと比較しやすくなります。
カスハラは現場の即応と組み合わせる
カスハラは、相談窓口に届く前に、その場での対応が要ることがあります。告示51号は、対処の内容を定める際に、その場で労働者から管理監督者等に報告があったときや管理監督者等が現認したときには「当該管理監督者等が直ちに適切な対応を行うことが必要な場合もあること」を踏まえるよう求めています(4(1)ロ p.14)。また、相談に対応する担当者として「労働者の上司に当たる管理監督者等を定めることも考えられる」としています(4(2) p.16)。
厚生労働省のカスタマーハラスメント対策企業マニュアル(令和8年度改訂版)は、外部の機関への委託も可能としたうえで、上司や現場の管理監督者、比較的規模の小さい企業では経営者等を窓口担当者とすることも考えられるとし、その理由に「日頃から現場の状況に精通していること」「現場に急行しやすいこと」を挙げています。どの形で窓口を設けても、社内の関係部署や外部の関係機関と連携が取れる体制が必要だともしています(4.3.1 印刷頁35)。
外部の窓口だけに頼ると、その場での対応と、悪質なものへの初動が遅れるおそれがあります。当社としては、外部の窓口と現場の一次対応者(店長・現場責任者など)を組み合わせ、それぞれの役割を対処の内容に書いておくことをすすめます。
相談が会社へ渡るルールを決める(誰に・何が・いつ)
外部委託で最も差がつくのは、委託先に届いた相談が会社にどう渡るかです。「誰に」「何が」「いつ」の3つに分けて、契約書や仕様書に書ける粒度で決めておきます。この節はすべて当社の実務上の提案です。
誰に届くか
決めておくのは、通常の届け先、相談の相手が上司・経営者・人事のときの代わりの届け先、緊急時の連絡先です。通常は人事の相談担当者とし、相手が窓口側の人であるときは通常の担当者を外して、経営者や別部門の責任者に届ける形が考えられます。代わりの届け先を決めないまま委託を始めないようにします。
届け先を分けるのは、相談の対象になっている人がその相談を受け取ってしまう状態を避けるためです。外部に委託しても、委託先の報告先が人事部長1人であれば、その人事部長についての相談は同じ人に届きます。
何が届くか
会社へ渡す情報を段階に分けます。
- 件数・種別(個人を特定しない)
- 概要(本人の同意を得たもの)
- 詳細と氏名(本人の同意を得たもの)
本人が会社に伝えないことを選べるかも決めておきます。定期報告には①を必ず含め、②③は本人の同意の取り方と記録を委託先の手順に入れます。少なくとも①と緊急時の連絡は会社に届く形にします。
段階を分けるのは、本人の意思の尊重と、会社が措置を講じるための把握を両立させるためです。厚生労働省の「あかるい職場応援団」は、相談を受けるときにまず、秘密の保持、相談によって不利益な取扱いがないこと、本人の意思や希望を尊重することを伝えるとしています(人事担当の方 Q&A「相談対応の流れを教えてください」)。
いつ届くか
定期の報告(例: 月次)と、即時の連絡の基準を決めます。即時連絡の基準の例は、いま危険が続いている、脅迫、身体への接触、性的な言動、自傷をほのめかす言動です。基準は会社が決め、委託先の判断に任せきりにしません。
自傷をほのめかす言動について、前掲の企業マニュアルは、相談者から「死にたい」など自殺を暗示する言動があった場合は、人事部門と連携して直ちに産業医などの医療専門家につなぐことが求められるとしています(4.3.2 印刷頁36)。
委託先に届いた時点の扱い
委託先に相談が入った時点で、会社が「相談の申出」を受けたことになるかどうかは、告示に明記がありません。ただ、告示は外部委託を「相談窓口をあらかじめ定めていると認められる例」に挙げているので、委託先は会社の窓口の1つの形です。会社が相談を受けたと評価される余地があると考え、委託先に届いた相談は会社の窓口に届いたものとして扱う前提で報告ルールを組んでおくことをすすめます。個別の判断は弁護士などの専門家に確認してください。
料金体系の例で見る費用の決まり方と見積もりで聞くこと
委託の費用には、月額の基本料金だけでは総額が決まらない体系があります。
公開されている料金の1例として、ハラスメント相談窓口外部委託センター(M&Nコンサルティング株式会社)の報酬表(2026年9月24日確認、いずれも税込)は、従業員数の区分ごとの月額の基本料金(9人までの4,980円から70〜99人の9,980円まで、6区分)に加えて、1件ごとの相談料金をメール5,500円、電話・ZOOM 11,000円としています。従業員100人以上は個別見積もりです。この体系では、総額は相談の件数と、どの手段で相談を受けたかによって変わります。1社の例であり、相場を示すものではありません。
見積もりを比べるときは、金額を左右する次の条件をそろえます。多くは前の2つの節で決めた内容から出てきます。
- 従業員数の区分
- 相談1件ごとの料金があるか、受付の手段(メール・電話・オンライン面談など)で単価が違うか
- 受付の時間帯(営業時間外や休日を含むか)
- 対象の範囲(カスハラだけか、ハラスメント全般か。求職者等、派遣労働者、グループ会社を含むか)
- 定期報告の頻度と様式、即時連絡の体制
- 事実確認の支援やカウンセリングなどの追加サービス
- 契約期間、最低利用期間、解約の条件
見積もりで聞いておくと比較できるのは、次の7点です。
- 基本料金に含まれる相談の件数はあるか。超えた分はどう計算されるか
- 受付時間外に届いた相談はどう扱われるか
- 相談の相手が上司・人事のとき、届け先を分けられるか
- 定期報告の様式はどうなっているか。件数と種別だけの報告にできるか
- 緊急時には、誰に、どのくらいの時間で連絡が来るか
- 相談記録の保存期間はどのくらいか。契約終了時に返還・削除されるか
- 再委託はあるか