2026年10月1日から、従業員の数や業種にかかわらず、すべての事業主に、カスタマーハラスメント(以下「カスハラ」)から労働者を守るための雇用管理上の措置が義務になりました(改正後の労働施策総合推進法 第33条第1項)。企業が講じるのは、厚生労働省の指針(令和8年厚生労働省告示第51号)が「講じなければならない」とする10の措置です。
- 義務になったこと:方針を決めて周知する、相談窓口を定める、相談があれば事実を確認して対応する、など10の措置(指針4)
- 研修の位置づけ:措置の中では周知などの方法の例。法律では「研修の実施その他の必要な配慮」として、別に努力義務が定められています(第34条第2項)
- 対応しない場合:労働局の助言・指導・勧告の対象になり得ます。勧告に従わなければ公表されることがあります。20万円以下の過料は、国から報告を求められて報告をしない、または虚偽の報告をした場合の定めです
2026年10月1日から何が義務になったか
以下は、2026年9月24日に確認した e-Gov 法令検索の「2026年10月1日施行版」の条文と、厚生労働省が公表した指針・解釈資料に基づいています。改正規定は2026年10月1日に施行されました。
義務の根拠は、次の3つがそろって成り立っています。
- 法律:改正労働施策総合推進法 第33条第1項が、事業主に措置を講じる義務を定めます(e-Gov 法令検索)
- 施行日:施行期日を定める政令(令和8年政令第17号)が、改正法の施行期日を2026年10月1日としています(厚生労働省掲載PDF)
- 中身:厚生労働大臣が定める指針(令和8年厚生労働省告示第51号、2026年2月26日告示、同年10月1日適用)が、講じるべき措置の内容を具体的に示します(告示51号PDF)
第33条第1項は、事業主に対し、顧客等の言動によって労働者の就業環境が害されることのないよう、「当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、労働者の就業環境を害する当該顧客等言動への対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」と定めています。法律が書いているのは措置の大枠で、何をすれば足りるかを示すのは指針です。
措置義務のほかに、法律には性質の違う次の定めがあります。
- 第33条第2項(義務):労働者が相談をしたこと、または事業主の相談対応に協力して事実を述べたことを理由に、解雇その他の不利益な取扱いをしてはならない
- 第33条第3項(努力義務):他の事業主から、その事業主が講じる措置への協力を求められたら、応じるように努める
- 第34条第2項(努力義務):カスハラの問題について労働者の関心と理解を深め、自社の労働者が他の事業主の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするように努める。自社の従業員が取引先などに対して加害者にならないための配慮も含みます
- 第34条第5項(顧客等の努力義務):顧客等も、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努める
この改正で、パワーハラスメント対策などを定めていた第30条の2〜第30条の8は第31条〜第39条に繰り下がり、カスハラの規定は第33条・第34条として加わりました(改正法条文PDF p.6〜7)。この記事の条番号はすべて施行後のものです。
規定の性質は、次の5つの言葉で分けて書きます。
| ラベル | 意味 |
|---|---|
| 義務 | 法律または指針が「講じなければならない」「してはならない」と定めるもの |
| 努力義務 | 法律または指針が「努めなければならない」と定めるもの |
| 望ましい取組 | 指針が「望ましい」とするもの |
| 例示 | 指針の「認められる例」「考えられる」に挙がる、義務を果たす手段の例。この方法でなければならないわけではない |
| 当社の運用提案 | 法令・指針の要求ではなく、ハラスメント対策室編集部が実務上すすめるもの |
カスハラの定義と、対象になる会社・人
カスハラの3つの要素
指針は、職場におけるカスハラを、次の①〜③をすべて満たすものとしています(告示51号 2(1)、p.2)。
- 職場において行われる、顧客等の言動であること
- その言動が、労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えたものであること
- それにより、労働者の就業環境が害されること
社会通念上許容される範囲で行われた苦情は正当な申入れで、カスハラには当たりません。障害者が、不当な差別的取扱いをしないよう求めることや、社会的障壁の除去を必要としている旨の意思を表明すること自体も当たりません(2(1)、p.2〜3)。
個々の言動がカスハラに当たるかどうかを、都道府県労働局は判断しません。事実関係を迅速かつ正確に確認するのは事業主の義務とされています(解釈Q&A 問45、p.54)。判断の手がかりは、指針 2(5)(6) に示された要素(言動の目的、経緯や状況、業種・業態、言動の態様・頻度・継続性など)です。
対象になる会社・人・場面
- 従業員数:法律は「事業主」に規模の要件を置いていません。施行期日の政令も規模で日付を分けていません。厚生労働省の案内も「全企業が対象です」としています(法第33条第1項/政令第17号/改正ポイントのご案内 p.1)
- 業種・BtoB企業:BtoB企業を含め、業種・業態を問わず取り組む必要があると厚生労働省のマニュアルが説明しています(企業マニュアル(令和8年度改訂版)「はじめに」p.1(PDFの3頁))
- 守る対象の労働者:パートタイム労働者・契約社員などを含む、雇用する労働者の全員です(告示51号 2(3)、p.3〜4)。派遣先も、派遣労働者を自社の労働者と同様に扱って措置を講じる必要があります(労働者派遣法第47条の4による。2(3)、p.4)
- 顧客等:顧客(今後購入・利用する可能性のある人を含む)、取引の相手方、施設の利用者、その他事業に関係する人。取引先の担当者、施設利用者の家族、施設の近隣住民なども例に挙がります(2(4)、p.4〜5)
- 場所・手段:取引先の事務所や顧客の自宅など、業務を行う場所は「職場」に含まれます。店頭などの対面だけでなく、電話やSNSなどインターネット上の言動も含まれます(2(1)(2)、p.2〜3)
- 顧客対応のない部署:方針も対処の内容も、所属部署・雇用形態を問わず、全ての労働者に周知する必要があります(解釈Q&A 問8、p.12・更問、p.13)
- 従業員1名の店舗:実態に応じた対処の内容を定めます。事実が確認できた場合の配慮の措置(担当者の変更、配置転換、メンタルヘルス不調への相談対応など)も必要です(解釈Q&A 問14、p.19)
義務になった10の措置と根拠
指針4は、事業主が「雇用管理上次の措置を講じなければならない」として、5つの区分に10の措置を定めています。番号は厚生労働省のリーフレット(詳細版)の①〜⑩に合わせました。①〜⑩はいずれも法第33条第1項の措置義務の中身で、⑩は同条第2項など(第36条第2項・第37条第2項を含む)の不利益取扱いの禁止を踏まえ、その旨を定めて労働者に周知するものです。
「残るものの例」は、指針に挙がっているもの(例示)と、当社が残しておくことをすすめるもの(当社の運用提案)を行ごとに分けています。
| 措置 | 指針 | 残るものの例 |
|---|---|---|
| ① 毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発する | 4(1)イ(p.12〜13) | 方針を載せた社内報・パンフレット・社内ホームページ等の資料(例示) |
| ② カスハラの内容と、あらかじめ定めた対処の内容を、管理監督者を含む労働者に周知する | 4(1)ロ(p.13〜15) | 対処の内容を記載した顧客対応マニュアル等(例示) |
| ③ 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する | 4(2)イ(p.16) | 相談担当者の定め(例示)、窓口を案内した日付と方法(当社の運用提案) |
| ④ 相談窓口の担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにする | 4(2)ロ(p.16〜17) | 担当者向けの留意点マニュアル、担当者研修(例示) |
| ⑤ 事実関係を迅速かつ正確に確認する | 4(3)イ(p.18〜19) | 確認した日、聴き取った相手、確認した資料(当社の運用提案) |
| ⑥ 事実が確認できた場合、被害者に対する配慮のための措置を速やかに適正に行う | 4(3)ロ(p.19〜20) | 講じた配慮の内容と日付(当社の運用提案) |
| ⑦ 方針を改めて周知・啓発するなど、再発防止に向けた措置を講ずる | 4(3)ハ(p.20〜22) | 事案の内容や対応経緯の記録(例示)、再周知の資料や再研修の実施(例示) |
| ⑧ 特に悪質と考えられるものへの対処の方針をあらかじめ定めて周知し、その対処を行える体制を整える | 4(4)(p.22〜23) | 悪質な事案への対処方針、関係部門の連携体制(例示) |
| ⑨ 相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨を労働者に周知する | 4(5)イ(p.23〜24) | プライバシー保護の手順を定めたマニュアル、その旨を載せた社内資料(例示) |
| ⑩ 相談したこと等を理由に不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発する | 4(5)ロ(p.24〜25) | 就業規則その他の服務規律を定めた文書への規定、社内報等への記載(例示) |
「指針」列の箇所と頁は告示51号PDFの下部に印字された頁番号です(4(3)の柱書は p.17 から始まります)。措置の番号はリーフレット(詳細版)p.2と同じです。告示の各項の読み方は告示51号の解説にあります。
自社がどこまでできているかは、無料の対応状況チェックで照らし合わせられます。
方針の明確化と周知・啓発(①②)
まず「毅然とした態度で対応し、労働者を保護する」という方針を決め、管理監督者を含む全員に知らせます(①)。それと別に、カスハラとはどういうものか、起きたときに現場で誰が何をするか(対処の内容)を定めて周知します(②)。
対処の内容の例として、指針は、管理監督者等へすぐ報告して指示を仰ぐ、可能な限り一人で対応させない、犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する、本社・本部へ情報共有する、などを挙げています。これらは限定列挙ではなく、各事業主が実態に応じて定めるものとされています。
方針を顧客等にも周知することは、指針上「被害の防止に当たっては効果的と考えられる」とされる取組で、義務ではありません(解釈Q&A 問7、p.11)。
相談体制の整備(③④)
相談窓口をあらかじめ定めて周知し(③)、担当者が適切に対応できるようにします(④)。指針は、相談担当者を定めること、相談に対応する制度を設けること、外部の機関に委託することを、窓口を定めていると認められる例として並べています。
④では、カスハラに当たるか微妙な場合や、発生のおそれがある段階でも、広く相談に応じることが求められています(4(2)ロ)。
事後の迅速かつ適切な対応(⑤⑥⑦)
相談があったら事実関係を確認し(⑤)、事実が確認できたら被害者への配慮の措置をとり(⑥)、再発防止の措置を講じます(⑦)。
- 行為者が立ち去って連絡先も分からない場合、行為者から話を聴く必要まではなく、周囲の労働者からの聴取や録音・録画などの確認が考えられるとされています(解釈Q&A 問12、p.17)
- ⑦は、事実が確認できなかった場合にも同様の措置を講ずると指針に明記されています(4(3)ハ、p.21)
抑止のための措置(⑧)
労働者に過度な要求を繰り返すなど、特に悪質と考えられるものへの対処の方針をあらかじめ定めて周知し、その対処を実行できる体制を整えます。対処の例として指針は、警察への通報、警告文の発出、法令の範囲内で商品の販売・サービスの提供をしないこと、出入り禁止、民事保全法に基づく仮処分命令の申立てを挙げています(4(4)、p.22〜23)。
この方針は②の対処の内容と別に作る必要はなく、一緒に定めて周知できます(解釈Q&A 問16、p.21)。
併せて講ずべき措置(⑨⑩)
①〜⑧を進める際には、相談者等のプライバシーを保護する措置とその周知(⑨)、相談等を理由に不利益な取扱いをされない旨を定めた周知・啓発(⑩)を併せて行います。⑨のプライバシーには、性的指向・ジェンダーアイデンティティなどの機微な個人情報も含まれます(4(5)イ)。
措置を講じるときに留意すること
指針は、対策を講じる際に、消費者法制が定める消費者の権利や、障害者差別解消法が定める不当な差別的取扱いの禁止・合理的配慮の提供義務に留意し、顧客等と建設的な対話を重ねるなど事案に応じて対応するよう求めています。業法でサービス提供の義務がある場合や、サービスが途絶えると顧客等の生命・健康に重大な影響が及ぶ場合にも留意が必要です(4 柱書、p.11〜12)。
義務とは別の「望ましい取組」
指針6・7(p.26〜30)は、措置義務とは別に、次の取組を望ましいとしています。
- 接客や商品・苦情対応についての研修など、カスハラの原因や背景を解消する取組
- 労働者や労働組合等の参画を得た、運用状況の把握と見直し
- 業種・業態に応じた取組
- 自社の労働者が他社の労働者にカスハラを行ってはならない旨の方針を併せて示すこと
- 他社の労働者や個人事業主等に対する顧客等の言動についても、同様の方針を示すこと
何から始めるか
10の措置はいずれも施行日から求められています。整える順序は、次の流れが進めやすいというのが当社の整理です。
- ①②⑧⑨⑩の内容を文書にする:周知は、方針と対処の内容が文書になっていないと始められません
- ③の窓口を決める:方針を読んだ従業員が「どこに相談すればよいか」で止まらないよう、周知と同じタイミングで案内できる状態にします
- まとめて全員に周知する
- ④⑨の担当者の準備を整える:事後対応(⑤⑥⑦)は相談が来てから動く措置ですが、誰が事実を確認し、誰が配慮を決めるかを②の対処の内容と④の担当者の準備の中で決めておくと動きやすくなります
義務か、任意か:迷いやすい10項目
厚生労働省は、2026年4月24日付で、指針の解釈を示す資料「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」(以下「解釈Q&A」)を公表し、9月30日に改訂しています(PDF)。この資料と指針の本文から、迷いやすい点を整理しました。
- 社内研修:措置では例示で、法律上は努力義務です。方針や対処の内容を周知する方法、担当者の対応力を高める方法の例として挙がります。法律は「研修の実施その他の必要な配慮」を努力義務として定めています(告示51号 4(1)イ②・ロ③、4(2)ロ③/法第34条第2項)
- 対応マニュアル:マニュアルという形式は例示で、中身は義務です。対処の内容を定めて周知すること自体は②の義務です(告示51号 4(1)ロ②、4(2)ロ②)
- 相談・対応の記録:例示です。再発防止の措置の中で「考えられる」とされるもので、義務とは書かれていません(告示51号 4(3)ハ、p.20)
- 顧客への方針の周知(掲示・ウェブサイト):義務ではありません。指針上「効果的と考えられる」とされる取組です(解釈Q&A 問7、p.11/告示51号 4(1)イ)
- 相談窓口の外部委託:例示です。窓口を定める方法の一つで、必須ではありません(告示51号 4(2)イ③/解釈Q&A 問42、p.51)
- パワハラ等の窓口との一本化、上司を担当者に:一体でなくてよく、上司である管理監督者等を担当者に定めることも考えられます。一体化を妨げるものでもありません(解釈Q&A 問11、p.16/告示51号 4(2))
- 悪質な顧客の出入り禁止:必ず出入り禁止にする必要はありません。定めた方針に基づき、その事案で講じるかどうかを判断する必要があります(解釈Q&A 問15、p.20)
- 業界団体のマニュアルを配るだけ:それだけでは①②を果たしたことになりません。参考にして自社の実情に応じて調整し、方針と対処の内容を定めて周知すれば、果たしたことになります(解釈Q&A 問20更問、p.26)。同業の複数の事業主と一体になって対処のマニュアルを策定し、策定に参画した事業主が、そのマニュアルに従って運用するものとして自社の労働者に周知した場合は、②の措置を果たしたことになります(問20、p.25)
- 就業規則の改定:カスハラについては、⑩の周知の方法の一つとして就業規則等への規定が例示されています。自社の従業員が取引先等にカスハラを行った場合の懲戒は、既存の懲戒規定で対応できれば、新たな規定は必ずしも要りません(告示51号 4(5)ロ①、p.25/解釈Q&A 問18、p.23)
- 法改正で事業主にできることが増えたか:改正法は事業主に措置を義務付けるもので、行為者に対する法的な権利や権限を新たに設けるものではありません(解釈Q&A 問17、p.22)
研修は「しなければ違法」という位置づけではありませんが、法律が努めるべきこととして定めています。