カスハラが1件起きたら、その場の対応 → 報告・相談 → 事実確認 → 被害者への配慮 → 再発防止の順に進めます。2026年10月1日からは、相談の申出があった事案について事実関係を迅速かつ正確に確認し、確認できたら被害者に配慮し、再発防止の措置を講じることが事業主の義務になりました(令和8年厚生労働省告示第51号の4(3))。事実を確認できなかった場合も、再発防止の措置は同じように講じます。
この記事は、1件の事案が起きてからの流れを1枚のフローにしたものです。相談窓口を誰にするか、どこへ上げるかといった事前の体制はカスハラ相談窓口の作り方で、10の措置の全体像はカスハラ対策の義務化で扱っています。
カスハラ対応フロー図
段階ごとに、法律上の位置づけを【】で示します。【義務】は告示51号が「講じなければならない」とする措置、【例】は告示が例として挙げるもの(「対処の内容の例」「認められる例」)、【望ましい】は告示やマニュアルが「望ましい」「望まれる」とするもの、【考えられる】は告示が「考えられる」とするものです。段階の分け方と順序は、一次資料をもとにした編集部の整理です。
0. 事前に決めてあること(起きてからは作れない)
- その場の対処の内容【義務】(告示4(1)ロ)
- 相談窓口と担当者【義務】(告示4(2))
- 特に悪質な事案への対処の方針と、それを実行できる体制【義務】(告示4(4))
1. その場の対応(現場の従業員と管理監督者)
- 事前に定めた対処の内容に沿って動く。管理監督者に直ちに報告して指示を仰ぐ、可能な限り一人で対応させない、などが告示の例【例】(告示4(1)ロ)
- 分岐:暴行・傷害・脅迫など犯罪に該当し得る言動 → 警察へ通報【例】
- 分岐:現場で対応が難しい → 本社・本部へ情報共有し指示を仰ぐ【例】
2. 報告・相談(現場の従業員 → 管理監督者・相談窓口の担当者)
- 事後の措置(4(3))は「相談の申出」があったときに始まる【義務】
- カスハラに当たるか微妙な場合も、発生のおそれがある段階でも、広く相談に対応する【義務】(告示4(2)ロ)
- 経緯は時系列で整理して報告する【望ましい】(企業マニュアル p.25)
3. 事実確認(管理監督者・相談窓口の担当者・関係部門)【義務】(告示4(3)イ)
- 相談者から事実関係を確認する。心身の状況や受け止めに配慮する【例】
- 必要に応じて、周囲の従業員から聴取し、録音・録画などの客観的な証拠を確認する【例】
- 必要かつ可能な場合は、行為者からも聴取する【考えられる】
- 分岐:行為者に連絡がつかない → 行為者からの聴取は不要。周囲の聴取や証拠で確認する(解釈Q&A 問12)
- 分岐:行為者が他社の従業員や役員 → 必要に応じて、その会社に事実確認への協力を求める(告示4(3)イ)
- 分岐:確認が困難 → 調停の申請その他、中立な第三者機関に紛争処理を委ねる【例】
4. 被害者への配慮(事実が確認できた場合、速やかに)【義務】(告示4(3)ロ)
- 管理監督者が代わって対応する、被害者と行為者を引き離す、担当者を変える・複数人で対応する、配置転換、メンタルヘルス不調への相談対応など【例】
- 並行して、顧客等への対応方針を決める。特に悪質なものは、0で定めた方針に基づいて対処を判断する(告示4(4)、解釈Q&A 問15)
5. 再発防止【義務】(告示4(3)ハ)
- 方針を改めて周知・啓発する。必要な場合は、原因や背景になった商品・サービス・接客等の問題を改善する
- 事実が確認できなかった場合も、同様の措置を講じる
- 事案の内容や対応経緯を記録し、個人情報に留意して関係部門に共有し、再発防止に活用する【考えられる】
- 行為者が他社の従業員や役員なら、必要に応じてその会社に再発防止への協力を求める
6. 運用の見直し(事案の後、定期的に)
- アンケートや意見交換で運用状況を把握し、必要な見直しを検討する【望ましい】(告示6(2)。6の「望ましい取組」の1つで、本文は「努めることが重要」)
全段階を通じて
- 相談者等のプライバシーを保護する【義務】(告示4(5)イ)
- 相談したことや事実確認に協力したことを理由に、解雇その他の不利益な取扱いをしない(労働施策総合推進法第33条第2項、告示4(5)ロ)
告示の義務は、厚生労働省のリーフレットの10の措置でいえば、3〜5が⑤⑥⑦、0が②③④⑧、全段階に掛かるものが⑨⑩にあたります。以下、段階ごとに判断の要点を補います。
1. その場の対応:事前に定めた対処の内容に沿って動く
その場で何をするかは、会社があらかじめ定めて従業員に周知しておく「対処の内容」で決まります(告示4(1)ロ、p.13〜15)。告示は、管理監督者等がその場で報告を受けたり現認したりしたときに、直ちに適切な対応が必要な場合もあることを踏まえて内容を定めるよう求めています。対処の内容の例は限定列挙ではなく、会社が実態に応じて定めるものです。
フローの上で押さえるのは、ここで流れが分かれる2点です。犯罪に該当し得る言動は警察へ通報し、現場で対応が難しいときは本社・本部へ情報共有して指示を仰ぎます。謝罪の範囲や話の聞き方、時間の区切り方といった具体的な対応方法は、対応マニュアルで定めておく内容です。その場で従業員がとる手順はカスハラの初動対応で整理しています。
従業員が1名の店舗では、管理監督者が代わることができません。解釈Q&Aの問14は、こうした店舗の対処の内容として、十分に説明しても要求が続く場合に一定時間で退店を求める・電話を切る、犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する、本社・本部へ情報共有して指示を仰ぐ、といった例を挙げています(解釈Q&A p.19)。
2. 報告・相談:事後の措置は「相談の申出」から始まる
告示4(3)は、「職場におけるカスタマーハラスメントに係る相談の申出があった場合において」事実確認と対処の措置を講じなければならない、と定めています(p.17〜18)。従業員からの報告・相談が管理監督者や相談窓口に届いた時点から、会社としての事後の対応が始まると考えると、段階の区切りがはっきりします。
受ける範囲は広くとります。告示4(2)ロは、カスハラが現実に生じている場合だけでなく、発生のおそれがある場合や、該当するか微妙な場合も広く相談に対応するよう求めています(p.17)。厚労省の企業マニュアル(令和8年度改訂版)も、カスハラとして扱うかどうかに関わらず、就業に支障が生じるおそれがあれば相談に応じる、複数名で対応する等の措置が必要だとしています(p.24)。
現場から上司への報告は、顧客等の要望だけでなく、事実関係を時系列で整理して伝えることが望まれています(企業マニュアル p.25)。本社・本部へ上げる基準と引き継ぐ項目は、事前の体制として決めておくものなので、相談窓口の作り方の「どこへ、どの基準で上げ、何を渡すか」を参照してください。
3. 事実確認:誰から聞き、確認できないときはどうするか
事実確認は、会社が自ら行う義務です。解釈Q&Aの問45は、労働局は個々の事案がハラスメントに当たるかどうかの判断は行わず、会社が事実関係を確認し、必要な措置を講じる必要があるとしています(p.54)。
告示は、事実確認をしていると認められる例として次の3つを挙げています(4(3)イ、p.18〜19)。
- ① 対処の内容を踏まえ、管理監督者等がその場で事実関係を確認し対応する
- ② 相談窓口の担当者、関係部門、専門の委員会等が相談者から事実関係を確認する。必要に応じて周囲の労働者からも聴取し、録音・録画等の客観的な証拠を確認する。必要かつ可能な場合は行為者からも聴取することも考えられる
- ③ 確認しようとしたが困難な場合などに、法第37条に基づく調停の申請その他、中立な第三者機関に紛争処理を委ねる
企業マニュアルは、事実関係を整理する流れとして、①時系列で状況と事実関係を把握する、②顧客等が求めている内容を把握する、③言動の内容が社会通念上許容される範囲を超えていないか検討する、④手段・態様が社会通念上許容される範囲を超えていないか検討する、の4つを示しています(p.37)。③④の判断の考え方は、カスハラとはの3つの要件で整理しています。
事実確認では、相談者の心身の状況や受け止め方に配慮し、本人の意向に沿いながら丁寧に進めます。企業マニュアルは、相談者や協力する従業員に、プライバシーを保護し不利益な取扱いをしない旨をあらかじめ伝えてから対応するとしています(p.37)。
録音・録画を事実確認に使う場合、それが個人情報にあたるなら、事実確認に使うことがあると利用目的をできる限り特定し、通知または公表しておく必要があります(解釈Q&A 問9、p.14)。
事実確認の分岐
| 状況 | 流れの行き先 | 根拠 |
|---|---|---|
| 顧客が立ち去り、連絡先も分からない | 行為者からの聴取は不要。周囲の従業員への聴取や録音・録画で確認する | 解釈Q&A 問12(p.17) |
| 行為者が取引先など他社の従業員・役員 | 必要に応じ、その会社に事実確認への協力を求める | 告示4(3)イ(p.18) |
| 行為者の勤務先は分かるが、業務と関係のない私的な場面だった | 勤務先に協力を求める必要はない | 解釈Q&A 問13(p.18) |
| 協力を求めた他社が応じない | 都道府県労働局に相談できる。労働局は相談内容に応じ、協力するよう助言する等の対応を行う | 解釈Q&A 問19(p.24) |
| 確認しようとしたが困難 | 調停の申請その他、中立な第三者機関に紛争処理を委ねる | 告示4(3)イ③(p.19)、法第37条 |
| 事実が確認できた | 4. 被害者への配慮へ進む | 告示4(3)ロ(p.19) |
| 事実が確認できなかった | 5. 再発防止へ進む | 告示4(3)ハ(p.21) |
取引先の従業員からの事案について、企業マニュアルは、相談者から確認する → 取引先に協力を依頼する → 取引先と共同で行為者から確認する → 事実が確認できたら再発防止への協力を求める、という手順を示しています(p.38)。
事実確認の期限や、記録を残す期間について、告示・解釈Q&A・企業マニュアルに定めはありません。求められているのは「迅速かつ正確に」確認することです。判断に迷う事案では、厚生労働省の委託事業として、事案が生じた企業に専門家が無料で助言する伴走型支援(全4回)もあり、2026年10月1日からはカスハラも対象です。