カスハラの基本方針の例文は、厚生労働省と東京都が無料で公開しています。まず使いやすいのは、厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(令和8年度改訂版)」の「企業の方針の例」(印字p.20〜21)です。2026年10月1日から告示51号が方針に必ず求めるのは「カスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する」という中身で、例文をもとに自社の方針として定め、雇用する全員に知らせるところまでが措置です。
この記事では、公的な例文がどの資料のどこにあるか、方針に必ず入れることと入れるとよいこと、例文を自社の方針にするときの確認点、社内周知と社外公開を順に整理します。当編集部は法的な文面を独自に作らない方針のため、例文そのものは各資料の原本で確かめてください。
公的に公開されている例文は3つ
国と東京都が公開している方針の例文は、次の3つです。どれも無料で、登録なしで入手できます。
| 資料 | 例文がある場所と中身 | 向いている使い方 |
|---|---|---|
| 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(令和8年度改訂版)」 | 4.2.1(印字p.20〜21)。方針に含める要素例7項目と、代表取締役社長の署名欄がある4段落の「企業の方針の例」。悪質なものへの対応方針の例は4.5.1(印字p.43) | 社内向けの方針を1枚で作る |
| 厚生労働省「事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット」(令和8年7月作成) | 「対応例」(印字p.40〜45)。就業規則の委任規定と別規定の例(第7条がカスハラへの基本姿勢)、社長名の周知文の例(第5項がカスハラへの基本姿勢) | パワハラ等を含めた規程・周知文にカスハラを組み込む |
| 東京都「事業者マニュアルのひな形(Word)」 | 「3 カスタマーハラスメントに対する基本方針」。はじめに・定義と行為の例・社内での対応・社外への対応の4部構成 | 社外にも公開する方針を作る。マニュアルと一緒に整える |
厚生労働省の企業マニュアル:告示に沿った社内向けの1枚
企業マニュアルの4.2.1は、告示51号4(1)イの措置を解説した節です(印字p.20)。「企業の方針に含める要素例」として、カスハラは自社にとって重大な問題である、放置しない、従業員を守る、従業員の人権を尊重する、社会通念上許容される範囲を超えた要求や言動を受けたら周囲に相談してほしい、組織として毅然とした態度で対応する、本方針は企業のトップメッセージである、の7項目を挙げています。
続く「企業の方針の例」は、お客様への真摯な対応、従業員の尊厳を傷つける要求や言動はあってはならない問題であること、そうした言動には毅然と対応し従業員を保護すること、上長等への報告・相談を奨励し組織的に対応すること、の4段落です(印字p.20)。末尾に「○○株式会社 代表取締役社長」の署名欄があります(印字p.21)。マニュアルは、トップの署名を添えて発信すると会社全体の取組であることを強く伝えられるとしています(印字p.20)。
このマニュアルは令和8年9月の改訂版で、令和8年度内に再改訂する予定とされています(印字p.2)。手元のPDFの表紙に「令和8年度改訂版」とあるかを確かめてから使ってください。
厚生労働省のパンフレット:規程や周知文に組み込む形
パンフレットの「対応例」には、パワハラやセクハラと一緒にカスハラを扱う2つの形が載っています。
- 例1(印字p.40〜42):就業規則に「詳細は別規定に定める」という委任規定を置き、「ハラスメントの防止に関する規定」を別に作る形です。第7条「カスタマーハラスメントへの基本姿勢」で、従業員の人格と就業環境を守る観点から会社として毅然と対応すること、具体的な対処はカスハラ対応マニュアルに定めることを規定しています
- 例2(印字p.43〜45):就業規則の懲戒規定で対処が読める会社が、リーフレット等で周知する形です。社長名の周知文の第5項がカスハラへの基本姿勢で、第2項には自社の従業員以外の者に対しても類する行為を行ってはならないことが入っています
どちらも、相談窓口の案内(例2は第6項)と、相談や事実確認への協力を理由に不利益な取扱いをしないこと(例2は第7項)を同じ文書に入れています。すでにハラスメント防止規程がある会社は、この形に倣ってカスハラの条項を足すのも一つの方法です。
東京都のひな形:社外への公開を前提にした構成
東京都のひな形は、各団体共通マニュアルの掲載ページにあるWordファイル(kasuharamanual_hinagata_20250304.docx)です。「3 カスタマーハラスメントに対する基本方針」の冒頭で、基本方針を「社内・社外に広く周知します」としており、お客様の声を大切にする姿勢から始まり、カスハラの定義と行為の例、社内での対応(従業員のケアを最優先・研修・相談窓口や警察・弁護士等との連携)、社外への対応(対応の打ち切り・サービス提供のお断り・警察等との連携)へ進みます。
「7 企業間取引におけるカスタマーハラスメント」には、取引先企業の経営者や従業員などに対しても自社の従業員がハラスメントを行ってはならないとする「ハラスメント防止基本方針」の例もあります。各節の末尾に「<適宜修正してください>」とあり、自社に合わせて書き換える前提のひな形です。マニュアル全体の使い方は「カスハラ対応マニュアルの作り方」で扱っています。
このほか、東京都のカスタマー・ハラスメントの防止に関する指針も「基本方針に定める要素例」を7項目挙げています(p.19)。厚労省の企業マニュアルを一部引用又は参照したものと注記されています。項目には「カスタマー・ハラスメントの内容」が入り、「トップメッセージである」は入っていません。
方針に必ず入れること、入れるとよいこと
告示51号が方針について事業主に求めているのは、カスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確にし、管理監督者を含む労働者に周知・啓発することです(4(1)イ、告示 p.12〜13)。例文のどれを使う場合も、この2つの要素(毅然と対応すること、労働者を保護すること)が読み取れるかを最初に確かめます。
ほかの項目は、同じ文書に入れる義務があるものではありません。ただ、別の措置で周知が必要なものや、指針が望ましいとするものがあるので、方針と一緒に書けば一度に周知できます。
| 項目 | 告示上の位置づけ | 公的な例文での扱い |
|---|---|---|
| 毅然と対応し、労働者を保護する旨 | 義務の中身(4(1)イ) | 厚労省マニュアルとパンフレットは明記。東京都ひな形は「従業員のケアを最優先」と、悪質な場合に「毅然と対応」する形 |
| トップの名前で出す | 認められる例①に添えられた記述(4(1)イ①「トップメッセージとして当該方針を広く社内に発信することも考えられる」) | 厚労省マニュアル・パンフレット例2は社長の署名欄つき |
| 相談してほしいこと・相談窓口 | 窓口を定めて労働者に周知すること自体は義務(4(2)イ) | 厚労省マニュアルは「上長等に報告・相談」、パンフレット例2は窓口の一覧 |
| 相談を理由に不利益に扱わないこと | 定めて労働者に周知することは義務(4(5)ロ) | パンフレット例1・例2 |
| 特に悪質なものへの対処の方針 | 定めて周知することは義務(4(4))。対処の内容と併せて定められる | 厚労省マニュアル4.5.1に別枠の例 |
| 自社の従業員が他社の従業員にカスハラをしないこと | 望ましい取組(6(4)) | パンフレット例2の第2項、東京都ひな形の「7 企業間取引におけるカスタマーハラスメント」 |
| 他社の従業員や個人事業主等が自社の職場で顧客等から受ける言動にも同様の方針を示すこと | 望ましい取組(7) | 東京都ひな形は、マニュアルでいう「従業員」に業務委託先のスタッフなども含めている(「2 カスタマーハラスメントの定義」) |
特に悪質なものへの対処の方針は、別の文書として作る必要はなく、カスハラへの対処の内容を定めて周知する際に併せて定められます(解釈事項 問16、印字p.21)。基本方針に書くか、対処ルールやマニュアルに書くかは、会社が選べます。
例文を自社の方針にするときの確認点
例文は、そのまま貼るより、自社の事情に合わせて直してから使います。解釈事項は、業界団体が作った業種別マニュアルを配布するだけでは4(1)イ・ロの措置を果たしたことにならず、参考にして自社の実情に応じた調整を行い、方針の明確化と周知をすれば果たしたことになると答えています(問20更問、印字p.26)。公的な例文について直接答えた問答はありませんが、編集部は同じ考え方で扱うのが安全だと考えています。
直すときに確かめる点は次の4つです。
- 定義の言い方をどちらに合わせるか:東京都のひな形は、カスハラを「著しい迷惑行為であって、従業員の就業環境を害するもの」と定義しています。これは東京都条例の言い方で、国の指針は3つの要素で定義しています(違いは「カスハラとは」)。都外の事業所がある会社は、どちらの定義で書くかを決めておきます
- 「会社が取る対応」を書きすぎていないか:対応の打ち切りやサービス提供のお断りを方針に書く場合は、実際にその判断をする人と手順が社内にあるかを確かめます。告示は、悪質なものへの対処の方針を定めるだけでなく、その対処を行える体制を整えることまで求めています(4(4)、p.22〜23)
- 誰の名前で出すか:署名欄を空欄のまま配らないようにします。トップの名前で出すかどうかは会社の選択です
- 他の文書と役割を分けたか:方針は姿勢を示す1枚にとどめ、現場での対処の手順はマニュアルや対処ルールに書く分け方があります。パンフレット例1の第7条も、具体的な対処内容はマニュアルに定めるとしています(印字p.42)