パワハラ・セクハラ・妊娠出産等・育児介護休業等・求職者等へのセクハラの5つは、行為者に厳正に対処する旨の方針と対処の内容を「就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書」に規定することが、指針の措置そのもの(義務)です。カスハラの指針(告示51号)は、方針を就業規則に書くことを求めていません。就業規則等が出てくるのは、相談したことなどを理由に不利益な取扱いをされない旨の周知の「例」と、自社の従業員が取引先などにカスハラをしたときの懲戒(望ましい取組)の2か所です。
規程の条文は自作するより、厚生労働省のパンフレットの対応例とモデル就業規則をもとにし、自社の懲戒規定でどこまで読めるかを確かめるのが近道です(編集部の提案)。この記事は、指針ごとの違い、労働基準法の手続、公的な規定例の所在をまとめます。懲戒処分の決め方そのものは、ハラスメント行為者の懲戒処分で扱います。
就業規則等に書く義務があるもの・ないもの
2026年10月1日にカスハラと求職者等へのセクハラの措置義務が施行され、事業主が防止措置を講じなければならないハラスメントは6つになりました。就業規則等への規定の扱いは、カスハラだけが違います。
| ハラスメント(根拠条文) | 就業規則等への規定 | 指針の箇所 |
|---|---|---|
| パワハラ(労働施策総合推進法31条) | 【義務】厳正に対処する旨の方針と対処の内容を規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発する | 告示5号 4(1)ロ(p.6) |
| セクハラ(男女雇用機会均等法11条) | 【義務】同上 | 告示615号 4(1)ロ(p.3) |
| 妊娠・出産等(男女雇用機会均等法15条) | 【義務】同上 | 告示312号 4(1)ロ(p.5) |
| 育児・介護休業等(育児・介護休業法25条) | 【義務】同上 | 告示509号 第二 十四(三)イ(ロ)(p.4) |
| 求職者等へのセクハラ(男女雇用機会均等法13条) | 【義務】同上 | 告示52号 4(1)ロ(p.9) |
| カスハラ(労働施策総合推進法33条) | 方針の規定先は定めていない。就業規則等は【例示】不利益取扱いをされない旨の規定、【望ましい】自社の行為者への懲戒、に出てくる | 告示51号 4(1)(p.12〜15)、4(5)ロ①(p.25)、5(2)(p.26) |
各指針の頁はPDFの頁です(印字と同じ)。指針は10月1日適用版で確認しています(パワハラ指針、セクハラ指針、妊娠・出産等の指針、育児・介護休業指針、告示52号、告示51号)。
5つのハラスメントで義務になっていること
5つの指針は同じ骨組みです。イで「行ってはならない旨の方針」を明確にして周知・啓発し、ロで「行った者については、厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること」を求めています(パワハラ指針 4(1)ロ、p.6)。
ロの措置として認められる例は2つです(パワハラ指針 p.6、告示52号 p.10)。
- 就業規則等で、行為者に対する懲戒規定を定め、その内容を周知・啓発する
- 行為者は現行の就業規則等に定めた懲戒規定の適用の対象になる旨を明確にし、周知・啓発する
新しい懲戒規定を作らなくても、いまの懲戒規定の対象になることをはっきりさせて周知する方法が、2つ目の例として認められています。厚労省のパンフレットは、「対処の内容」を文書に規定する目的を、どの言動にどんな対処がなされるかをルールとして明確にし、労働者に認識してもらうことでハラスメントの防止を図ることだと説明しています(パンフレット 印字p.26)。
なお、方針そのもの(イ)は就業規則への規定に限られません。社内報やパンフレットへの記載、研修も認められる例に並んでいます(パワハラ指針 4(1)イ、p.5)。
カスハラ(告示51号)で就業規則が関わる場面
カスハラの指針が4(1)イで求めるのは、「毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針」を明確にし、管理監督者を含む労働者に周知・啓発することです。認められる例に挙がっているのは、社内報やパンフレットなどに記載して配ることと研修などで、就業規則への規定は挙がっていません(告示51号 p.12〜13)。対処の内容(4(1)ロ)も、顧客等への対応に関するマニュアル等に書いて周知する形が例に入っています(p.15)。厚労省のパンフレットも、厳正対処の方針と対処の内容を就業規則等に規定する措置を「カスタマーハラスメント以外のハラスメント」の項目として示しています(印字p.26)。
カスハラで就業規則が関わるのは、次の3つです。告示が就業規則等に触れているのは1つ目と2つ目です。
- 【義務・例示】相談したことや事実確認に協力したことなどを理由に、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定めて周知することは義務です(4(5)ロ)。その方法の例の1つが、就業規則等への規定です(p.25)。社内報等への記載も例に並んでいます
- 【望ましい】他社から事実確認への協力を求められ、自社の従業員がカスハラをした事実が確認できたときは、就業規則等の規定に基づいて必要な懲戒その他の措置を講ずることが望ましいとされています(5(2)、p.26)
- 【望ましい】方針を明確にするとき、自社の従業員が他社の従業員にカスハラを行ってはならない旨の方針も併せて示すことが望ましいとされています(6(4)、p.29)
2つ目について、厚労省の解釈事項は、自社の労働者が取引先等にカスハラをした場合でも、「信用失墜行為や服務規律違反に対する懲戒規定等の既存の規定に基づき、必要な措置を講ずることが可能である場合には、必ずしも就業規則等を改正し、カスタマーハラスメントに係る規定を新たに設ける必要はない」としています(解釈事項 問18、印字p.23)。解釈事項は2026年9月30日に改訂され、問番号の一部が改訂前の版から変わっています。改訂前の版ではこの問は問19でした。
「その他の職場における服務規律等を定めた文書」とは
指針の文言は「就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書」で、就業規則に限っていません。厚労省のパンフレットは、その他の文書として「従業員心得や必携、行動マニュアル等、就業規則ではないものの社内ルールを定めたもの」を挙げています(印字p.25)。
ただし、懲戒の根拠には就業規則の定めが要るとされています。モデル就業規則の解説は、最高裁判決(国鉄札幌運転区事件、昭和54年10月30日)を引いて、「就業規則に定めのない事由による懲戒処分はできません」としています(モデル就業規則 第68条の解説、p.88)。懲戒が、行為の性質や態様その他の事情に照らして客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、権利の濫用として無効になります(労働契約法15条)。
このため、対処の内容に懲戒を含めるなら、従業員心得などに書くだけでなく、就業規則の懲戒規定で読めるかを確かめる必要がある、と編集部は整理しています。
労働基準法の手続:変えるなら意見聴取・届出・周知
常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成して労働基準監督署長に届け出なければならず、変更したときも同じです(労働基準法89条)。表彰と制裁は、定めをする場合にはその種類と程度を記載しなければならない事項です(89条9号)。モデル就業規則は、10人以上かどうかを企業全体ではなく営業所や店舗などの事業場ごとに数えると説明しています(p.3)。
ハラスメントの規定を加えるときの手続は、次の順です。
- 労働者の過半数で組織する労働組合、ない場合は労働者の過半数を代表する者の意見を聴く(90条1項)
- その意見を記した書面を添えて、労働基準監督署長に届け出る(89条、90条2項)
- 掲示、備え付け、書面の交付などの方法で労働者に周知する(106条1項)
モデル就業規則は、「就業規則は、作成したり、労働者の代表者から意見を聴取しただけでは効力は発生しないと解されています」と説明し、効力は労働者に周知された時期以降に生じるとしています(p.4)。指針の側も、規定したうえで管理監督者を含む労働者に周知・啓発することまでを措置としています。
モデル就業規則は、育児・介護休業や賃金の事項を就業規則の本体と別に定めた規程も就業規則の一部になり、届出が必要だと解説しています(第28条の解説 p.46、第6章 p.50)。ハラスメントの規定を別の規程にする場合(パンフレットの対応例1の形)も、懲戒の定めを置く別規程は同じように扱うのが安全だと編集部は考えます。届出の要否は、所轄の労働基準監督署か社会保険労務士に確かめてください。