ハラスメント・カスハラを就業規則にどう書くか|義務と記載の考え方

行為者に厳正に対処する旨の方針と対処の内容を就業規則等に規定することは、パワハラ・セクハラ・妊娠出産等・育児介護休業等・求職者等へのセクハラの指針では措置そのものです。カスハラの指針は方針を就業規則に書くことを求めていません。指針ごとの違い、労働基準法の手続、厚生労働省の公的な規定例の所在をまとめます。

更新
2026年10月5日
法令・資料の確認
2026年10月5日
読了の目安
11分
目次
  1. 就業規則等に書く義務があるもの・ないもの
  2. 「その他の職場における服務規律等を定めた文書」とは
  3. 労働基準法の手続:変えるなら意見聴取・届出・周知
  4. 公的な規定例はどこにあるか
  5. 見直しの進め方
  6. ハラスメント対策室でできること
  7. よくある質問
  8. 次の一手

パワハラ・セクハラ・妊娠出産等・育児介護休業等・求職者等へのセクハラの5つは、行為者に厳正に対処する旨の方針と対処の内容を「就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書」に規定することが、指針の措置そのもの(義務)です。カスハラの指針(告示51号)は、方針を就業規則に書くことを求めていません。就業規則等が出てくるのは、相談したことなどを理由に不利益な取扱いをされない旨の周知の「例」と、自社の従業員が取引先などにカスハラをしたときの懲戒(望ましい取組)の2か所です。

規程の条文は自作するより、厚生労働省のパンフレットの対応例とモデル就業規則をもとにし、自社の懲戒規定でどこまで読めるかを確かめるのが近道です(編集部の提案)。この記事は、指針ごとの違い、労働基準法の手続、公的な規定例の所在をまとめます。懲戒処分の決め方そのものは、ハラスメント行為者の懲戒処分で扱います。

就業規則等に書く義務があるもの・ないもの

2026年10月1日にカスハラと求職者等へのセクハラの措置義務が施行され、事業主が防止措置を講じなければならないハラスメントは6つになりました。就業規則等への規定の扱いは、カスハラだけが違います。

ハラスメント(根拠条文) 就業規則等への規定 指針の箇所
パワハラ(労働施策総合推進法31条) 【義務】厳正に対処する旨の方針と対処の内容を規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発する 告示5号 4(1)ロ(p.6)
セクハラ(男女雇用機会均等法11条) 【義務】同上 告示615号 4(1)ロ(p.3)
妊娠・出産等(男女雇用機会均等法15条) 【義務】同上 告示312号 4(1)ロ(p.5)
育児・介護休業等(育児・介護休業法25条) 【義務】同上 告示509号 第二 十四(三)イ(ロ)(p.4)
求職者等へのセクハラ(男女雇用機会均等法13条) 【義務】同上 告示52号 4(1)ロ(p.9)
カスハラ(労働施策総合推進法33条) 方針の規定先は定めていない。就業規則等は【例示】不利益取扱いをされない旨の規定、【望ましい】自社の行為者への懲戒、に出てくる 告示51号 4(1)(p.12〜15)、4(5)ロ①(p.25)、5(2)(p.26)

各指針の頁はPDFの頁です(印字と同じ)。指針は10月1日適用版で確認しています(パワハラ指針、セクハラ指針、妊娠・出産等の指針、育児・介護休業指針、告示52号、告示51号)。

5つのハラスメントで義務になっていること

5つの指針は同じ骨組みです。イで「行ってはならない旨の方針」を明確にして周知・啓発し、ロで「行った者については、厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること」を求めています(パワハラ指針 4(1)ロ、p.6)。

ロの措置として認められる例は2つです(パワハラ指針 p.6、告示52号 p.10)。

  1. 就業規則等で、行為者に対する懲戒規定を定め、その内容を周知・啓発する
  2. 行為者は現行の就業規則等に定めた懲戒規定の適用の対象になる旨を明確にし、周知・啓発する

新しい懲戒規定を作らなくても、いまの懲戒規定の対象になることをはっきりさせて周知する方法が、2つ目の例として認められています。厚労省のパンフレットは、「対処の内容」を文書に規定する目的を、どの言動にどんな対処がなされるかをルールとして明確にし、労働者に認識してもらうことでハラスメントの防止を図ることだと説明しています(パンフレット 印字p.26)。

なお、方針そのもの(イ)は就業規則への規定に限られません。社内報やパンフレットへの記載、研修も認められる例に並んでいます(パワハラ指針 4(1)イ、p.5)。

カスハラ(告示51号)で就業規則が関わる場面

カスハラの指針が4(1)イで求めるのは、「毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針」を明確にし、管理監督者を含む労働者に周知・啓発することです。認められる例に挙がっているのは、社内報やパンフレットなどに記載して配ることと研修などで、就業規則への規定は挙がっていません(告示51号 p.12〜13)。対処の内容(4(1)ロ)も、顧客等への対応に関するマニュアル等に書いて周知する形が例に入っています(p.15)。厚労省のパンフレットも、厳正対処の方針と対処の内容を就業規則等に規定する措置を「カスタマーハラスメント以外のハラスメント」の項目として示しています(印字p.26)。

カスハラで就業規則が関わるのは、次の3つです。告示が就業規則等に触れているのは1つ目と2つ目です。

  • 【義務・例示】相談したことや事実確認に協力したことなどを理由に、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定めて周知することは義務です(4(5)ロ)。その方法の例の1つが、就業規則等への規定です(p.25)。社内報等への記載も例に並んでいます
  • 【望ましい】他社から事実確認への協力を求められ、自社の従業員がカスハラをした事実が確認できたときは、就業規則等の規定に基づいて必要な懲戒その他の措置を講ずることが望ましいとされています(5(2)、p.26)
  • 【望ましい】方針を明確にするとき、自社の従業員が他社の従業員にカスハラを行ってはならない旨の方針も併せて示すことが望ましいとされています(6(4)、p.29)

2つ目について、厚労省の解釈事項は、自社の労働者が取引先等にカスハラをした場合でも、「信用失墜行為や服務規律違反に対する懲戒規定等の既存の規定に基づき、必要な措置を講ずることが可能である場合には、必ずしも就業規則等を改正し、カスタマーハラスメントに係る規定を新たに設ける必要はない」としています(解釈事項 問18、印字p.23)。解釈事項は2026年9月30日に改訂され、問番号の一部が改訂前の版から変わっています。改訂前の版ではこの問は問19でした。

「その他の職場における服務規律等を定めた文書」とは

指針の文言は「就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書」で、就業規則に限っていません。厚労省のパンフレットは、その他の文書として「従業員心得や必携、行動マニュアル等、就業規則ではないものの社内ルールを定めたもの」を挙げています(印字p.25)。

ただし、懲戒の根拠には就業規則の定めが要るとされています。モデル就業規則の解説は、最高裁判決(国鉄札幌運転区事件、昭和54年10月30日)を引いて、「就業規則に定めのない事由による懲戒処分はできません」としています(モデル就業規則 第68条の解説、p.88)。懲戒が、行為の性質や態様その他の事情に照らして客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、権利の濫用として無効になります(労働契約法15条)。

このため、対処の内容に懲戒を含めるなら、従業員心得などに書くだけでなく、就業規則の懲戒規定で読めるかを確かめる必要がある、と編集部は整理しています。

労働基準法の手続:変えるなら意見聴取・届出・周知

常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成して労働基準監督署長に届け出なければならず、変更したときも同じです(労働基準法89条)。表彰と制裁は、定めをする場合にはその種類と程度を記載しなければならない事項です(89条9号)。モデル就業規則は、10人以上かどうかを企業全体ではなく営業所や店舗などの事業場ごとに数えると説明しています(p.3)。

ハラスメントの規定を加えるときの手続は、次の順です。

  1. 労働者の過半数で組織する労働組合、ない場合は労働者の過半数を代表する者の意見を聴く(90条1項)
  2. その意見を記した書面を添えて、労働基準監督署長に届け出る(89条、90条2項)
  3. 掲示、備え付け、書面の交付などの方法で労働者に周知する(106条1項)

モデル就業規則は、「就業規則は、作成したり、労働者の代表者から意見を聴取しただけでは効力は発生しないと解されています」と説明し、効力は労働者に周知された時期以降に生じるとしています(p.4)。指針の側も、規定したうえで管理監督者を含む労働者に周知・啓発することまでを措置としています。

モデル就業規則は、育児・介護休業や賃金の事項を就業規則の本体と別に定めた規程も就業規則の一部になり、届出が必要だと解説しています(第28条の解説 p.46、第6章 p.50)。ハラスメントの規定を別の規程にする場合(パンフレットの対応例1の形)も、懲戒の定めを置く別規程は同じように扱うのが安全だと編集部は考えます。届出の要否は、所轄の労働基準監督署か社会保険労務士に確かめてください。

公的な規定例はどこにあるか

規程の文面は、厚労省が公開している例から始められます。どれも例であり、自社の実態に合わせて直す前提です。

資料と場所 中身 使いどころ
パンフレット 対応例1(印字p.40〜42) 就業規則に委任規定を置き、「ハラスメントの防止に関する規定」を別に定める。6つのハラスメントの定義、禁止行為、行為に応じた懲戒(第4条)、カスハラへの基本姿勢(第7条) 規定を1つにまとめて整える
パンフレット 例2(印字p.43〜45) 懲戒規定でハラスメントを読める会社が、どの行為が懲戒事由に当たるかを社長名の周知文で示す。取引先等へのカスハラも列挙 就業規則を変えずに、現行の懲戒規定の対象であることを明確にする
パンフレット 例4・例5(印字p.47) 例4は言動と処分の種類を対応させた懲戒規定、例5は懲戒事由にハラスメントを含め判断要素を示す規定 懲戒規定そのものを直す
モデル就業規則(令和7年12月版) 第12〜15条、第67条・第68条(p.17〜18、p.86〜88) パワハラ・セクハラ・妊娠出産育児介護等・その他あらゆるハラスメントの禁止と、懲戒の種類・事由 就業規則の本体の書き方を確かめる

パンフレットの対応例1は、第3条で、自社の従業員以外の者に対しても禁止行為に類する行為を行ってはならないこと、カスハラに当たる行為を他社の従業員に対して行ってはならないことを定めています(印字p.41)。例2と例4も、取引先等への要求や言動を、懲戒の対象になる行為に含めています(印字p.44、p.47)。6(4)の望ましい取組を規程に反映するときの手がかりになります。

モデル就業規則には、注意点が3つあります。編集部が令和7年12月版の本文を確かめた範囲では、カスハラと求職者等へのセクハラを扱う条文はありません。また、第12〜15条はいずれも「他の労働者」に対する言動を禁じる書き方で、求職者等や取引先の従業員に対する言動は明示していません。解説が挙げる根拠条文も、10月1日に変わる前の番号(労働施策総合推進法第30条の2、男女雇用機会均等法第11条の3)のままです(p.17〜18、p.86)。10月1日からは、それぞれ第31条、第15条です(告示53号 p.28の新旧対照)。

モデル就業規則に沿って就業規則を作った会社には、求職者等へのセクハラが懲戒の対象と読めるかを確かめることを編集部はすすめます。読みにくければ、告示52号の例②のとおり、対象になる旨を明確にして周知する方法があります(p.10)。

見直しの進め方

ここからは当社の提案です。条文を一から書く前に、いまの就業規則で何が読めるかを確かめると、作業が少なくて済みます。

  1. 懲戒の事由を読む。パワハラ・セクハラ・妊娠出産等・育児介護休業等・求職者等へのセクハラが、懲戒の対象として読めるかを類型ごとに確かめる
  2. 足りない類型の補い方を決める。懲戒規定を直す(例①)か、現行の懲戒規定の対象になる旨を明確にして周知する(例②)かを選ぶ。パンフレットの例2は後者の形
  3. カスハラは、方針と対処の内容をどの文書に書くかを決める。就業規則でも、方針文書や対応マニュアルでもかまわない。不利益な取扱いをされない旨は、告示の例にある就業規則等か社内報等で定めて周知する
  4. 就業規則を変える場合は、意見聴取・届出・周知の手続をとる(10人以上の事業場)
  5. 改定した版と周知した日を、あとから示せる形で残す

方針の例文と社内周知はカスハラ基本方針の例文・テンプレート、求職者等への措置の全体は就活セクハラ対策の義務化、事実を確認したあとの行為者への措置はハラスメント相談を受けた後の対応にまとめています。

ハラスメント対策室でできること

ハラスメント対策室の「法令対応」画面では、就業規則等を、方針や対応マニュアルと同じく文書の一つとして登録できます。登録するのは名称・施行日・保管場所と、どの項目が書かれているかのチェックで、本文は預かりません(ヘルプ「法令対応(方針・周知・記録)」)。方針や対応マニュアルと違い、就業規則等には標準版を用意していません。就業規則は会社の定めそのものだからです。規定が無ければ自社の就業規則等で整える必要があるので、社会保険労務士や弁護士への相談をおすすめします。

無料の対応状況チェックには、就業規則その他の服務規律を定めた文書に、行為者を厳正に対処する旨を規定しているかを尋ねる設問があります。

よくある質問

従業員が10人未満で、就業規則がありません

労働基準法の作成・届出の義務は、常時10人以上の労働者を使用する事業場にかかります(89条)。一方、パワハラ・セクハラ・求職者等へのセクハラなどの指針が求める規定先は「就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書」なので、従業員心得のような社内ルールの文書に規定する方法も考えられます(パンフレット 印字p.25)。ただし、モデル就業規則の解説のとおり、就業規則に定めのない事由による懲戒処分はできません。対処の内容に懲戒を含めるなら、就業規則の作成も含めて社会保険労務士に相談するのが確実です。

カスハラ専用の規程を新しく作る必要はありますか

告示51号は、カスハラの方針や対処の内容を就業規則や独立した規程に書くことを求めていません。方針文書や対応マニュアルに書いて周知する形も、告示の例に入っています。自社の従業員が取引先等にカスハラをした場合の懲戒も、既存の懲戒規定で措置できるなら新しい規定は必ずしも要りません(解釈事項 問18)。パワハラ等と1つの規程にまとめたい場合は、パンフレットの対応例1が参考になります。

モデル就業規則をそのまま使ってもよいですか

モデル就業規則は、表紙に記載の時点(令和7年12月)での関係法令を踏まえた例で、就業規則の内容は事業場の実態に合ったものにしなければならない、と厚労省自身が書いています(p.4)。10月1日に始まったカスハラと求職者等へのセクハラの措置は、令和7年12月版の条文には入っていません。改定のときは、上の「公的な規定例はどこにあるか」の注意点を確かめてください。

次の一手

就業規則の見直しは、措置全体の点検の一部です。無料の対応状況チェックで、方針・相談窓口・事後の対応・就業規則等への記載の状況を約2分で確かめられます。登録もメールアドレスも要りません。条文ごとの性質は告示51号を項ごとに読むと告示52号を項ごとに読むで確かめられます。

出典

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