2026年10月1日から、求職者等(就職活動中の学生、インターンシップの参加者、教育実習・看護実習などの実習生など)に対する自社の労働者によるセクシュアルハラスメントを防ぐため、雇用管理上の措置を講じることが、企業の規模を問わずすべての事業主の義務になりました(男女雇用機会均等法 第13条第1項)。厚生労働省はこれを「いわゆる『就活セクハラ』」と呼び、講じる措置の中身を指針(令和8年厚生労働省告示第52号)で定めています。採用担当者がやることは7つにまとまり、そのうち指針の各措置が求職者等への周知を求めているのは、面談等の留意事項・相談窓口・プライバシー保護の3つです。
- 義務になること:方針を規程に書いて社内に周知する、面談等のルールを決める、相談窓口を決めて求職者等に知らせる、など指針4の措置
- 研修の位置づけ:措置の中では周知などの方法の例。法律では別に「研修の実施その他の必要な配慮」が努力義務として定められています(第14条第2項)
- 迷う場面:内定者、定期採用をしていない会社、懇親の場の扱いは、厚生労働省の解釈資料が答えています(この記事の後半)
2026年10月1日から何が義務になったか
以下は2026年9月24日に確認した内容で、e-Gov 法令検索に掲載された「2026年10月1日施行版」の条文と、厚生労働省が公表した指針・解釈資料に基づいています。改正規定は確認の時点では施行前で、現在は施行されています。
根拠と、対象になる会社・人
義務の根拠は次の3つです。
- 法律:男女雇用機会均等法 第13条第1項が、求職者等からの相談に応じて適切に対応する体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を、事業主に義務づけます。同条第2項は、求職者等からの相談への対応に協力して事実を述べた労働者を、それを理由に解雇その他不利益に扱うことを禁じています(e-Gov 法令検索)
- 施行日:施行期日を定める政令(令和8年政令第17号)が、2026年10月1日としています(厚生労働省掲載PDF)
- 中身:第13条第3項に基づく指針(告示52号、2026年2月26日告示、同年10月1日適用)が、講じる措置を具体的に示します(告示52号PDF)。項ごとの読み方は告示52号の解説で整理しています
「求職者等」は、求職者に加えて、事業主が行う採用に資する活動に参加する人と、教育実習・看護実習その他の実習を受ける人です(均等法施行規則 第2条の3)。厚生労働省の解釈資料は、求職者を「当該事業主に雇用されようとし、その意思を表示している」人とし、採用に資する活動の例に就職説明会・インターンシップ・OB・OG訪問を挙げています(解釈事項 問29、p.36)。
守る相手は求職者等で、措置の対象になる行為者は自社の「労働者」です。正社員に限らずパートタイム労働者・契約社員を含む全員で、派遣労働者を受け入れている会社は、派遣労働者についても自社の労働者と同様に措置を講じる必要があります(告示52号 2(3)、p.3〜4)。役員や事業主本人の言動は、後半の「迷う場面」で扱います。
どんな場面が対象になるか
指針は求職活動等の例として、採用面接、就職説明会、自社の労働者への訪問、インターンシップ、教育実習・看護実習等の実習を挙げています。SNSなどオンラインでのやり取りも含み、労働者が通常働いている場所で行われるものに限りません(2(2)、p.2〜3)。同性に対するものも含み、被害を受けた人の性的指向やジェンダーアイデンティティにかかわらず対象です(2(1)、p.2)。
指針は典型的な例を6つ挙げています。たとえば「面接中、面接官を務める労働者から性的な事実に関する質問を受け」た例や、「インターンシップ中に労働者が求職者等を執拗に私的な食事に誘」った例です(2(5)、p.5〜6)。
実態調査の数字
厚生労働省の委託調査(令和5年度、インターネット調査)では、2020〜2022年度卒業で就職活動(転職を除く)またはインターンシップを経験した1,000人のうち、インターンシップ中に就活等セクハラを一度以上受けたと答えた人は30.1%、インターンシップ以外の就職活動中に受けた人は31.9%でした(実態調査報告書 概要版 p.5・p.41)。インターンシップ以外で受けた場面は「リクルーターと会ったとき」(32.8%)が最も多く、「内々定を受けた後」(26.0%)が続きます(受けた人の複数回答、p.42)。同じ調査の企業調査では、就活等セクハラに関する取組として「特にない」(53.0%)が最も多い回答でした(p.14)。
採用担当者がやること7つと誰に向けて示すか
指針4は「雇用管理上次の措置を講じなければならない」としており、以下の7つはすべて義務です(p.7)。各措置には、措置を講じていると「認められる例」が添えられています。①〜⑦はこの記事での行動の番号で、厚生労働省のリーフレット(詳細版)は同じ措置を①〜⑪の11項目に分けています。
| 採用担当者の行動 | 指針が書く周知先 | 根拠 |
|---|---|---|
| ① 方針を決め、就業規則等に書く | 管理監督者を含む労働者 | 4(1)イ・ロ |
| ② 面談等のルールを決め、研修する | 労働者と求職者等 | 4(1)ハ、問33 |
| ③ 相談窓口を決め、連絡先を出す | 求職者等 | 4(2)イ、問34 |
| ④ 窓口担当者が対応できるようにする | (社内の体制) | 4(2)ロ |
| ⑤ 起きたときの流れを決める | (社内の手順) | 4(3)イ〜ニ |
| ⑥ プライバシー保護の措置を決める | 労働者と求職者等 | 4(4)イ |
| ⑦ 協力者を不利益に扱わないと定める | 労働者 | 4(4)ロ、法13条2項 |
各措置の本文が求職者等への周知を求めているのは、②の面談等の留意事項、③の相談窓口、⑥のプライバシー保護の3つです。①の方針と⑦の定めは、社内の労働者へ周知するものとして書かれています。④と⑤は、社内で決めておく体制と手順です。
① 方針を決めて、就業規則等に書く
求職者等へのセクハラの内容と、行ってはならない旨の方針を明確にし、管理監督者を含む労働者に周知・啓発します(4(1)イ、p.8)。あわせて、行った者には厳正に対処する旨の方針と対処の内容を、就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書に規定します(4(1)ロ、p.9)。新しく懲戒規定を設けるほか、現行の懲戒規定の適用対象になる旨を明確にする方法も、認められる例に挙がっています(p.10)。厚生労働省のリーフレットの一覧はこの措置を「労働者に周知・啓発する」と短く書いているので、規程への記載は指針の本文で確かめてください。
面接官の高圧的な言動など、パワーハラスメントに類する行為についても同様の方針を併せて示すことは、望ましい取組とされています(6(1)、p.19、問36)。
② 面談等のルールを決め、面接官・リクルーター・インターン担当に研修する
求職活動等に関するルールをあらかじめ明確にし、労働者と求職者等に周知・啓発します(4(1)ハ、p.10)。解釈資料は、ルールの中身として面談時間・場所の指定、実施体制(複数人で対応することとする等)、やり取りに用いるSNSの種類の指定を挙げています(問33、p.42)。そのうえで、労働者には研修や講習を、求職者等にはホームページやパンフレット等で面談等に関する留意事項を周知することが「必要である」としています。
具体的な時間帯や場所の決め方は指針にありません。自社の採用フロー(説明会、面接、リクルーター面談、インターンシップ)ごとに、誰が・どこで・どの連絡手段で会うかを決めるのが実際の作業になります。
③ 相談窓口を決め、求職者等に連絡先を出す
相談窓口をあらかじめ定め、求職者等に周知します(4(2)イ、p.11)。窓口は形式的に設けるだけでなく、実質的に対応できるものにし、周知ではホームページやパンフレット等で窓口の部署または担当者等の連絡先を示すことなどが必要とされています(問34、p.43)。窓口の置き方として、担当者を決める、制度を設ける、外部の機関に委託する、の3つが認められる例に挙がっています(p.11〜12)。
担当者を人事以外にするかは自社の判断です。指針は、求職者等が人事担当者への相談をためらうことも想定されるため人事以外の者を指定することも「考えられる」とし(p.11)、解釈資料は、例外なく人事以外である必要はなく企業において適切に判断するよう求めています(問34更問、p.44)。
④ 窓口担当者が対応できる体制にする
窓口の担当者が、相談の内容や状況に応じて適切に対応できるようにします(4(2)ロ、p.12)。セクハラが現実に起きている場合だけでなく、発生のおそれがある場合や、該当するか微妙な場合も広く相談に応じます。認められる例は、担当者と人事部門が連携できる仕組み、留意点を記載したマニュアル、担当者への研修です(p.13)。窓口を人事以外に置く場合は、人事部門へのつなぎ方を先に決めておくことを、当社の運用提案としてすすめます。
⑤ 起きたときの流れを決めておく
相談があったときの流れは、指針4(3)が4段階で定めています(p.13〜16。各段階の具体的な中身は「認められる例」から引いています)。
- 事実確認:相談者と行為者とされる者の双方から確認し、主張が一致せず確認が十分にできないときは第三者からも聴取する
- 被害者への配慮:事実が確認できたら、引き離しの対応、行為者の謝罪、人事担当者による相談対応などを行う
- 行為者への措置:就業規則等の規定に基づき、必要な懲戒その他の措置を講じる
- 再発防止:方針をあらためて周知し、研修を改めて実施するなど。事実が確認できなかった場合も同様に講じます
⑥ プライバシー保護の措置を決め、労働者と求職者等に知らせる
相談者・行為者等の情報はプライバシーに属するため、保護に必要な措置を講じ、その旨を労働者及び求職者等に周知します(4(4)イ、p.16)。認められる例は、マニュアルへの規定、担当者への研修、措置を講じていることを社内報やホームページ等に掲載して社内に配布・社外に発信することです(p.16〜17)。求職者等向けには、③の窓口の案内と同じ場所に書くと伝わりやすくなります(当社の運用提案)。
⑦ 協力した労働者を不利益に扱わない旨を定め、労働者に知らせる
労働者が事実関係の確認に協力したことや、労働局に相談したことなどを理由に、解雇その他の不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発します(4(4)ロ、p.17。均等法 第13条第2項も参照)。就業規則等への規定や社内資料への記載が、認められる例です(p.17〜18)。①の規程改定と同じタイミングで済ませると手戻りがありません。
求職者等に見える場所に出すもの
指針の本文から整理すると、採用ページ・募集要項・説明会資料・面談日程の連絡メールなど求職者等の目に触れる場所に出すのは、次の3つです。
- ②の面談等に関する留意事項(4(1)ハ)
- ③の相談窓口の部署または担当者等の連絡先(4(2)イ、問34)
- ⑥のプライバシーを保護する措置を講じていること(4(4)イ)
①の方針そのものを社外に公開することについて、指針4(1)の柱書は「労働者及び求職者等に対するその方針の周知・啓発として」と掲げていますが、イ・ロの本文が周知先として書くのは管理監督者を含む労働者です。当社の運用提案としては、上の3つと同じ場所に方針の要旨を1段落添えることをすすめます。求職者等が「この会社では何が禁止され、どこに相談できるか」を1か所で読めるからです。
研修はどこまで義務か
研修は2つの層に分けて考えます。
- 措置の中の研修(義務の手段の例):方針の研修(4(1)イ)、面談等のルールの研修(4(1)ハ)、窓口担当者の研修(4(2)ロ)、再発防止の研修(4(3)ニ)が認められる例に挙がっています。このうち面談等のルールについては、解釈資料が労働者への研修や講習の実施を「必要である」としています(問33、p.42)
- 法律の努力義務:事業主は、労働者の関心と理解を深め、求職者等に対する言動に必要な注意を払うよう、「研修の実施その他の必要な配慮」をするように努めなければなりません(均等法 第14条第2項)。事業主(法人の場合は役員)自身と労働者にも、それぞれ注意を払う努力義務があります(同条第3項・第4項)
研修が法的に一切求められていない、という整理にはなりません。誰から受講させるかは自社の判断ですが、面接官、リクルーター、インターンシップの受け入れ担当、実習の指導者など、求職者等と直接会う労働者から始めるのが現実的です(当社の運用提案)。