中小企業のカスハラ対策|10月1日の義務化で最低限やるべきこと

2026年10月1日から、中小企業にも猶予なくカスハラ防止の措置が義務になりました。措置は10項目すべて、作る文書と手間は最少にする組み立て方と、専任の人事がいない会社で誰が何を担うかを、法令と厚生労働省・東京都の資料で整理します。

更新
2026年10月17日
法令・資料の確認
2026年9月24日
読了の目安
13分
目次
  1. パワハラのときと違い中小企業に猶予はない
  2. 「最低限」の意味は措置を減らさず作る量を減らすこと
  3. 誰がやるかと規模別の役割の置き方
  4. 社長1人でも回せる5つのステップで10月1日からの義務を整える
  5. 小さい会社で詰まりやすい6つの疑問
  6. 使える公的支援と、手元に置く資料
  7. 次の一歩

2026年10月1日から、労働者を雇用する事業主はすべて、規模や業種を問わず、カスタマーハラスメント(カスハラ)を防ぐ措置を講じる義務を負います。中小企業への猶予や経過措置はありません。講じる措置は10項目で、会社の規模によって減ることはありません。

この記事でいう「最低限」は、措置は10項目すべて、作る文書と手間はできるだけ少なくという意味です。従業員10〜100名ほどの会社なら、方針1枚・対処ルール1枚・窓口の担当者の指名・事後対応の手順1つで、10項目それぞれに対応する形を作れます。その組み立て方と、専任の人事がいない会社で誰が何を担うかを、法令と厚生労働省・東京都の資料に沿って整理します。

パワハラのときと違い中小企業に猶予はない

条文に規模の限定がない

カスハラ対策の根拠は、改正後の労働施策総合推進法第33条第1項です。「事業主は」、「その雇用する労働者」の就業環境が害されないよう、相談体制の整備などの「雇用管理上必要な措置を講じなければならない」と定めており、事業の規模や業種による限定はありません。「顧客等」には顧客のほか取引の相手方や施設の利用者も含まれるため、法人相手の取引が中心の会社も対象です(同項、厚労省 カスタマーハラスメント対策企業マニュアル「はじめに」)。施行日は施行期日政令(令和8年政令第17号)で2026年10月1日と定められています。

パワハラのときは中小企業に猶予があった

2019年(令和元年)の法改正でパワハラ防止措置が義務になったときは、その改正法の附則第3条に「中小事業主に関する経過措置」がありました。中小事業主は政令で定める日までのあいだ、措置を「講じるように努めなければ」ならない、と努力義務に読み替えられていたのです(労働施策総合推進法 令和元年改正法附則第3条)。中小事業主を含むすべての事業主がパワハラ防止措置の義務の対象になったのは、2022年(令和4年)4月からです(厚労省 検討会資料 p.2)。

今回のカスハラ対策を定めた改正法(令和7年法律第63号)の附則には、中小事業主についてのこうした読み替えがありません。附則が定める経過措置は、施行の際に手続中の紛争の扱い(第4条・第5条)と女性活躍推進法の情報公表(第6条)に関するものです。施行に合わせて出された政令(施行期日政令、関係政令の整備政令(令和8年政令第181号))にも、中小事業主についての定めはありません。パワハラのときのような、資本金や従業員数による「中小事業主」の区分そのものが、今回の措置義務にはありません。

対応が不十分な場合は、都道府県労働局による助言・指導・勧告の対象になり得ます(厚労省マニュアル「はじめに」、法第42条第1項)。第33条第1項・第2項に違反して勧告に従わないと、その旨が公表されることがあります(第42条第2項)。また、報告を求められて報告しない、または虚偽の報告をすると、20万円以下の過料の対象です(第45条第1項・第51条)。措置を講じないこと自体に罰金や拘禁刑を科す規定は置かれていません。

東京都内の事業者には、2025年4月1日から、都のカスハラ防止条例第14条で、指針に基づく体制の整備や手引(マニュアル)の作成などの措置を講ずる努力義務があります。これは国の措置義務とは別のもので、10月1日からは両方がかかっています。

「最低限」の意味は措置を減らさず作る量を減らすこと

規模によって減らない10の措置

厚生労働省の指針(告示第51号)の4が定め、厚労省リーフレット(簡易版)が①〜⑩に整理した措置は次のとおりです。どの項目にも、会社の規模による例外はありません。

  • ① カスハラには毅然と対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化し、周知・啓発する
  • ② カスハラの内容と、あらかじめ定めた対処の内容を周知する
  • ③ 相談窓口をあらかじめ定め、周知する
  • ④ 窓口の担当者が適切に対応できるようにする
  • ⑤ 事実関係を迅速かつ正確に確認する
  • ⑥ 被害者に対する配慮のための措置を行う
  • ⑦ 再発防止に向けた措置を講ずる
  • ⑧ 特に悪質と考えられるカスハラへの対処の方針を定めて周知し、対処を行える体制を整える
  • ⑨ 相談者等のプライバシーを保護する措置を講じ、周知する
  • ⑩ 相談したこと等を理由に不利益な取扱いをされない旨を定め、周知・啓発する

減らせるのは、文書の数・周知の手段・担当者の置き方

文書の数。 告示は、方針を社内報やパンフレット、社内ホームページなどに載せて配ることを、①を講じていると認められる例に挙げ、トップメッセージとして発信することも考えられるとしています(告示4(1)イ、p.13)。⑧の悪質なものへの方針は、②の対処の内容を定めて周知する際に併せて定め、周知することができます(告示4(4)、p.23/解釈事項 問16)。⑨・⑩の周知も、社内報・パンフレット等への掲載・配布が例に挙がっています(告示4(5)、p.24〜25)。

周知の手段。 研修は、方針や対処の内容を周知する方法の例の1つです(告示4(1)イ②・ロ③)。これとは別に、法律は「研修の実施その他の必要な配慮」を事業主の努力義務としています(法第34条第2項)。

担当者の置き方。 窓口の担当者は、上司や経営者が兼ねる形が示されています(次の章)。

こうした例を組み合わせると、10〜100名の会社は次の4つで10項目それぞれに対応する形を作れます。表の組み立て(何を何枚にまとめるか)は当社の提案で、措置そのものはすべて義務です。

作るもの・決めること 中に入れること 対応する措置
方針 1枚 カスハラには毅然と対応し、従業員を守るという方針(社長のメッセージの形でもよい)。相談したことを理由に不利益に扱わないこと。相談者のプライバシーを守ること ①・⑩、⑨の周知
対処ルール 1枚 何がカスハラか(自社で起きやすい例を添える)。その場の対処(上司へすぐ報告、なるべく1人で対応させない、十分説明しても要求が続けば退店を求める・電話を切る、犯罪に当たり得る言動は警察へ、現場で無理なら本部へ共有)。特に悪質な場合の対処(警告文、法令の範囲での販売・提供の停止、出入り禁止など)と、誰が判断して動くか ②・⑧
窓口の担当者の指名 誰が相談を受けるか。受けた人が誰と連携するか。カスハラか微妙な相談も広く受けること。相談の内容を誰が見られるか ③・④、⑨の措置
事後対応の手順(書式 1つ) 事実の確認(本人と周囲から聞く、録音・録画があれば確かめる)。被害者への配慮(担当の交代、相手との引き離し、心身の不調の相談)。再発防止(方針と対処ルールを改めて周知) ⑤・⑥・⑦

表の中の対処の例は、告示が挙げる例(限定列挙ではない)から選んだものです(告示4(1)ロ・4(3)・4(4)、p.14〜23)。録音・録画も例の1つで、行う場合は個人情報保護法等を守って扱います(p.14〜15)。⑦の再発防止は、カスハラの事実が確認できなかった場合にも同様に講じます(告示4(3)ハ、p.21)。

作っただけでは措置になりません。 ①②③⑧⑨⑩は、労働者に知らせるところまでが措置の中身です。方針も対処の内容も、顧客と接しない部署やパート・アルバイトを含む全員に周知する必要があります(解釈事項 問8・更問)。いつ、誰に配ったかを残しておくと、あとから確かめられます。

誰がやるかと規模別の役割の置き方

専任の人事がいなくても、役割を3つに分けて誰が担うかを決めれば回せます。東京都のカスハラ防止指針は、厚労省マニュアルを引用・参照して、企業規模ごとの内部手続の例を示しています(p.23〜24)。10〜100名の会社は、おおむね右の列に当たります。

役割 5人以下 6〜100人
対策の推進(方針・ルールを作り、見直す) 経営者など 本部(経営者、人事部門の責任者など)
相談を受ける(相談対応者) 経営者など 従業員の上司(店長など)
現場で対応を引き取る(現場監督者) 経営者など 従業員の上司(店長など)

人数の区分は東京都指針の例示で、法律上の区分ではありません。厚労省マニュアルは人数で区切らず、「比較的規模の小さい企業」では経営者等が対策の推進と相談窓口を担い、従業員の報告・相談を受けて指示・助言をするか、直接顧客等に対応する形を示しています(図7・図9)。

社長や店長が窓口を兼ねてよい

告示は、相談の担当者として労働者の上司に当たる管理監督者等を定めることも考えられるとしています(告示4(2)、p.16)。解釈事項の問11も、カスハラはその場ですぐ、現場に詳しい上司に相談するのが適切な場合もあるため、パワハラ等の窓口と一体にする必要はないとしています。厚労省マニュアルは、窓口を必ずしも新たに設ける必要はなく、比較的規模の小さい企業では経営者等を担当者にすることが考えられるとしています(4.3.1)。外部の機関への委託も、窓口の定め方の例の1つです(告示4(2)イ③)。

窓口を兼ねる人の相談先も決めておく

厚労省マニュアルは、上司や現場の管理監督者を窓口の担当者にする場合、その人自身が相談できる窓口を別に設けることも考えられるとしています(4.3.1)。店長が受けた相談は社長へ、社長が抱えきれないときは顧問の専門家へ、というように、窓口を担う人の相談先を1つ決めておくのが当社の提案です。どの形でも、社内の関係者や外部の関係機関と連携を取りやすい体制にしておく必要があるとされています(同)。

社長1人でも回せる5つのステップで10月1日からの義務を整える

日数は当社の目安で、合わせて3日半ほどです。

  1. 決める(半日):上の表で3つの役割を誰が担うかと、窓口を担う人の相談先を決めます。手元に置く資料は、厚労省マニュアルの令和8年度改訂版と、所属する業界団体のマニュアルがあればそれです。検索すると以前の版のPDFも出てくるため、表紙の「令和8年度改訂版」を確かめてください。
  2. 書く(1日):方針1枚と対処ルール1枚を書きます(表の1・2行目)。対処ルールには、自社で起きやすいカスハラの例を添えると伝わりやすくなります(告示4(1)ロ、p.14)。業界団体のマニュアルは、自社の実情に合わせて調整してから使います。
  3. 手順を決める(半日):事実の確認、被害者への配慮、再発防止の進め方と、記録の書式を1つ決めます(表の4行目)。1人で店や現場を回す時間帯があれば、その場の対処を対処ルールに足します(次の章)。
  4. 配る(1日):方針と対処ルール、窓口の案内を全員に配り、配った日と相手を記録します。研修は周知の方法の1つで、法律も「研修の実施その他の必要な配慮」を努力義務としているため、配ったあとの計画に入れておきます。
  5. 確かめる(半日):抜けがないかを無料の対応状況チェック(8領域・16問、所要2分ほど、登録不要)で確かめます。採用活動をしている会社は、同じ日に義務になった求職者等へのセクハラ防止措置もあわせて確認します。

10月1日を過ぎたあとも義務は続いており、やることは同じです。まだ整っていない場合も、この順で進めてください。

小さい会社で詰まりやすい6つの疑問

就業規則を直さないといけませんか

カスハラの方針や対処の内容は、社内報やパンフレット等に載せて配る形が告示の例に挙がっており、就業規則に書くことに限られていません(告示4(1)イ①、p.13)。自社の従業員が取引先等にカスハラをした場合の懲戒も、既存の信用失墜行為や服務規律違反の懲戒規定で対応できれば、新しい規定を必ずしも設ける必要はありません(解釈事項 問18)。一方、求職者等へのセクハラについては、行為者に厳正に対処する方針と対処の内容を「就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書」に規定することが求められます(告示第52号 4(1)ロ、p.9)。就業規則の作成義務は常時10人以上の労働者を使用する使用者に課されているため(労働基準法第89条)、就業規則のない会社は、服務規律を定めたその他の文書に規定します。書き方の考え方は、ハラスメント・カスハラを就業規則にどう書くかにまとめています。

業界団体のマニュアルを配れば足りますか

配るだけでは①②を果たしたことになりません(解釈事項 問20更問)。業界団体のマニュアルを参考に、自社の実情に合わせて調整して方針と対処の内容を定め、周知すれば果たしたことになり、そのうえで業界団体のマニュアルを併せて配るのは効果的とされています(同)。同業の複数の事業主と一体でマニュアルを策定し、策定に参画した事業主が、そのマニュアルに従って運用するものとして自社の労働者に周知した場合は、②を果たしたことになります(問20)。

顧客と接しない社員やパートにも配りますか

配ります。「顧客等」には取引の相手方なども含まれるため、顧客対応のない部署でも措置は必要です。方針も対処の内容も、所属部署や雇用形態を問わず全ての労働者に周知する必要があります(解釈事項 問8・更問)。

窓口は社長や店長でもよいですか

よいです。上司に当たる管理監督者等や、比較的規模の小さい企業では経営者等を担当者にすることが、告示と厚労省マニュアルに示されています(告示4(2)、厚労省マニュアル4.3.1)。窓口を担う人自身の相談先も、あわせて決めておきます。

1人で店や現場を回す時間帯はどうしますか

たとえば、十分に説明しても要求が続けば一定時間で退店を求める・電話を切る、犯罪に当たり得る言動は警察へ通報する、現場で対応が難しければ本社・本部へ共有して指示を仰ぐ、といった対処の内容を定めておくことが考えられます(解釈事項 問14)。東京都指針も、引き継ぐ管理者がいない場合に備え、現場の就業者だけでもできる基本的な対応方法を周知・教育しておくことが望ましいとしています(p.22)。従業員が1名の店舗でも、相談がありカスハラの事実が確認できれば、担当者の変更、配置転換、心身の不調への相談対応などの配慮の措置を講じる必要があります(問14)。

毎年は採用していない会社も、求職者へのセクハラ対策が要りますか

定期的な採用活動をしておらず、求職者等と労働者が接する機会がない間は、告示第52号の措置を全て講じていなくても差し支えないとされています(解釈事項 問37)。採用活動を始め、説明会や面接を行うことになれば、その時点で全ての措置が必要です。欠員補充の採用を始める前に準備しておきます。

使える公的支援と、手元に置く資料

厚労省のカスタマーハラスメント対策企業マニュアルの現行版は、令和8年度改訂版です。10の措置の中身や、規模の小さい企業の体制の例(図7・図9)もここで確かめられます。

東京都の奨励金(都内の中小企業等)

東京都は、2025年4月1日以降に、カスハラ対策マニュアルの作成に加えて、録音・録画環境の整備、AIを活用したシステム等の導入、外部人材の活用のいずれか1つを行った都内中小企業等に、40万円の奨励金を支給しています(東京都 報道発表 2026年9月8日)。第2回募集の事前エントリーは2026年10月23日(金)から11月6日(金)まで、対象は常時雇用する従業員300人以下の都内中小企業等、募集規模は5,000件です(同)。先着順ではなく、支給申請は抽選で複数回に分けて受け付けます。都は、本事業の募集は今回で終了するとしています(同)。

対象にはほかにも要件があり、募集要項は奨励金の特設ホームページに後日掲載されます(報道発表、東京しごと財団)。申請は電子申請システム「Jグランツ」で受け付け、利用にはGビズIDプライムが必要です。発行まで時間がかかるため、余裕を持った準備が呼びかけられています(東京しごと財団)。

厚労省の無料の伴走型支援(事案が起きたとき)

厚労省の委託事業で、ハラスメント事案が生じた企業等の相談に労務管理に精通した専門家が応じ、解決に向けて伴走支援します。相談と専門家の派遣は無料、オンラインにも対応し、支援は全4回です。事業のページは、2026年10月1日からカスハラ対策も事業主の義務であることを示したうえで、この支援を案内しています(同)。事案が起きたあとの支援なので、方針や対処ルールは自社で整えておきます。制度についての問い合わせ先は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)です(厚労省リーフレット p.2)。

次の一歩

まず対応状況チェックで、いまの状態を確かめてください。8領域・16問で所要2分ほど、登録やメールアドレスの入力は不要で、回答は送信されません。表の4つが揃っているか、全員に配るところまで済んでいるかを確かめる材料になります。

「ハラスメント対策室」は、この記事の手順を画面の上で進めるためのサービスです。方針や対応マニュアルは既存の文書の登録か標準版の採用で整え(画面で確認・印刷)、アプリ内での配布や、紙・朝礼で配った記録を残せます。相談窓口のQRコード・URLと、8編の研修動画(確認テストと受講記録つき)も用意しています。相談は本人が会社への共有を選ぶまで本人専用の相談整理スペースにとどまり、内容を整理するのはAIで、判断と対応をするのは御社の担当者です。

料金は従業員数で決まり、50名以下は月9,800円、51〜200名は月19,800円、201〜500名は月29,800円(いずれも税抜)です。組織の作成やテスト相談は無料で、研修動画はサンプルを見られます。契約は従業員の招待と窓口の公開のときです。料金を見る(従業員数で3段階)

出典

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