カスハラとは?法律上の定義・3つの要件・具体例をわかりやすく解説

カスハラ(カスタマーハラスメント)の法律上の定義を、2026年10月1日から適用されている厚生労働省の指針(告示51号)の文言で3つの要件に分けて整理します。含まれる範囲と当たらないもの、指針が挙げる具体例、クレームとの違い、東京都条例との違いまで確かめられます。

更新
2026年10月5日
法令・資料の確認
2026年9月24日
読了の目安
11分
目次
  1. 指針が定める定義:3つの要件
  2. どこまでがカスハラか:要件ごとの早見表
  3. 具体例:指針が挙げる類型
  4. クレームとの違い
  5. 国の定義と東京都条例の違い
  6. よくある誤解
  7. 次の一歩
  8. 参考資料

カスハラ(カスタマーハラスメント)とは、顧客や取引先などからの言動のうち、社会通念上許容される範囲を超えたもので、それによって労働者(事業主が雇用する人)の就業環境が害されるものをいいます。3つの要件をすべて満たすものだけが当たり、客観的にみて許容される範囲の苦情は「正当な申入れ」とされます。2026年10月1日から、カスハラから労働者を守るための雇用管理上の措置が事業主の義務になりました(労働施策総合推進法 第33条第1項)。

「カスハラ」は「カスタマーハラスメント」の略です。法律の条文はこの言葉を使わず「顧客等言動」と呼び、厚生労働省の指針(令和8年厚生労働省告示第51号。以下「指針」)が「職場におけるカスタマーハラスメント」として中身を定めています。この記事で引用する定義は、すべて指針の文言です。

指針が定める定義:3つの要件

指針は、職場におけるカスタマーハラスメントを次のように定めています(指針2(1))。

職場において行われる①顧客等の言動であって、②その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすものをいう。

① 顧客等の言動

「顧客等」は、顧客、取引の相手方、施設の利用者、その他事業に関係を有する者です。これから購入・取引・利用する可能性がある人も含まれ、指針は例として、問い合わせをする者、取引先の担当者、企業間の契約交渉の担当者、施設・サービスの利用者とその家族、施設の近隣住民などを挙げています(指針2(4))。一般消費者に限られないため、法人を相手に取引する企業(BtoB)も対象です(企業マニュアル「はじめに」)。

言動が行われる「職場」は、労働者が業務を遂行する場所です。取引先の事務所、打合せのための飲食店、顧客の自宅も含まれます(指針2(2))。訪問看護や訪問介護の利用者とその家族も「顧客等」に含まれます(解釈Q&A 問3)。対面だけでなく、電話やSNSなどインターネット上の言動も対象です(指針2(1))。

② 社会通念上許容される範囲を超えた言動

言動の内容が「契約内容からして相当性を欠くもの」、または「手段や態様が相当でないもの」を指します(指針2(5))。内容と手段・態様のどちらか一方だけが範囲を超える場合でも該当し得ます。

判断にあたっては、言動の目的、労働者の問題行動の有無を含む経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性などを総合的に考慮するのが適当とされています。事業主や労働者の側の不適切な対応が、言動の原因や背景になっている場合があることにも留意が必要です(指針2(5))。

③ 労働者の就業環境が害される

言動によって身体的または精神的な苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、就業するうえで看過できない程度の支障が生じることを指します(指針2(6))。基準は「平均的な労働者の感じ方」、つまり同じ状況で社会一般の労働者が看過できない支障が生じたと感じるかどうかです。頻度や継続性も考慮されますが、強い身体的・精神的苦痛を与える言動なら、1回でも就業環境を害する場合があり得ます。

守られる「労働者」は、パートタイム労働者や契約社員を含む、事業主が雇用する労働者の全てです。派遣労働者については、派遣先も自社の労働者と同様に措置を講じる必要があります(指針2(3))。

どこまでがカスハラか:要件ごとの早見表

要件 含まれるもの(見落としやすい範囲) 当たらないもの・注意点
① 顧客等の言動 ・潜在的な顧客、取引先や契約交渉の担当者(BtoBも)
・利用者の家族、施設の近隣住民
・訪問先や顧客の自宅、電話・SNS
・障害者が不当な差別的取扱いをしないよう求めること、社会的障壁の除去を求める意思の表明
② 社会通念上許容される範囲を超えた言動 ・内容が契約内容からして相当性を欠く
・手段・態様が相当でない(一方だけでも)
・客観的に許容範囲の苦情は「正当な申入れ」
・自社側の不適切な対応が背景にないかも見る
③ 就業環境が害される ・平均的な労働者が看過できない支障と感じるもの
・強い苦痛を与える言動なら1回でも
・拒否したらすぐ取り下げた場合などは該当しない可能性(企業マニュアルの解説)

根拠は、①が指針2(1)・2(2)・2(4)と解釈Q&A問1・問3、②が指針2(1)・2(5)、③が指針2(6)と企業マニュアル(印字p.24)です。

当たらないもの

  • 客観的に許容範囲の苦情:顧客等からの苦情の全てが該当するわけではなく、客観的にみて社会通念上許容される範囲で行われたものは「いわば正当な申入れ」であり、当たりません(指針2(1))
  • 障害者からの申出:障害者差別解消法で禁止される不当な差別的取扱いをしないよう求めることや、社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明は、それ自体は当たりません。負担が過重でないときは、合理的配慮が必要な点にも留意が求められます(指針2(1))
  • 撮影のすべて:指針が例示する「無断での撮影」について、解釈Q&Aは、撮影をやめるよう言われたのに撮り続ける場合などを例に挙げています。店舗や施設での撮影の全てが直ちに該当するものではありません(解釈Q&A 問5)
  • すぐに取り下げられた要求:企業マニュアルは、要求内容に妥当性がない場合でも、拒否したらすぐに取り下げた等の場合は就業環境が害されたとは言えず、該当しない可能性があると解説しています(印字p.24)

一方で企業マニュアルは、カスハラとして扱うかどうかにかかわらず、就業に支障が生じるおそれがあれば、相談に応じる、複数名で対応するなどの措置が必要になるとしています(印字p.24)。

具体例:指針が挙げる類型

指針は典型的な例を「言動の内容」と「手段や態様」に分けて挙げています(指針2(5)イ・ロ)。かぎかっこ内は、各類型に添えられた例の一つです。

言動の内容が範囲を超える類型は、次のとおりです。

  • そもそも要求に理由がない、または商品・サービス等と全く関係のない要求:「性的な要求や、労働者のプライバシーに関わる要求をすること」
  • 契約等により想定しているサービスを著しく超える要求:「契約内容を著しく超えたサービスの提供を要求すること」
  • 対応が著しく困難な、または対応が不可能な要求:「契約金額の著しい減額の要求をすること」
  • 不当な損害賠償要求:「商品やサービス等の内容と無関係である不当な損害賠償要求をすること」

手段や態様が範囲を超えるものには、次の類型があります。

  • 身体的な攻撃(暴行、傷害等):「殴る、蹴る、叩く等の暴行を行うこと」
  • 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要等):「土下座を強要すること」
  • 威圧的な言動:「大きな声をあげて労働者や周囲を威圧すること」
  • 継続的、執拗な言動:「同様の質問を執拗に繰り返すこと」
  • 拘束的な言動(不退去、居座り、監禁):「長時間に渡る居座りや電話で労働者を拘束すること」

指針は、これらが限定列挙ではないこと、個別の事案の状況等によって判断が異なる場合もあり得ることに十分留意するよう求めています。

クレームとの違い

クレーム(苦情)とカスハラを分けるのは、苦情があるかどうかではなく、その内容と手段・態様が社会通念上許容される範囲に収まっているかどうかです。範囲内の申入れは正当な申入れで、指針は、労働者がこれを踏まえて真摯に業務を遂行する意識を持つことも重要だとしています(指針6(1))。

クレームとカスハラの区別は、要求の中身だけでは決まりません。企業マニュアルは、購入した商品に瑕疵があれば謝罪とともに交換・返金に応じるのは妥当だとしたうえで、要求内容に妥当性がある場合でも、言動が暴力的・威圧的・継続的・拘束的であれば範囲を超えると考えられるとしています(印字p.22〜23)。反対に、手段や態様に問題がなくても、内容が契約内容からして相当性を欠けば、それだけで該当し得ます(指針2(5))。

苦情は本来、商品・サービスや業務運営の改善につながる重要な情報です(企業マニュアル「はじめに」)。企業マニュアルは、単なる苦情が現場の初期対応の内容によってカスハラに発展することもあり得るとして、誠意ある対応と事実確認を勧めています(印字p.24)。

国の定義と東京都条例の違い

東京都は、東京都カスタマー・ハラスメント防止条例を2025年4月1日から施行しています。同じ「カスハラ」でも、守られる人や求める内容が国の定義と異なります。

観点 国(法律・指針) 東京都条例
呼び方 法律は「顧客等言動」、指針は「職場におけるカスタマーハラスメント」 「カスタマー・ハラスメント」
いつから 2026年10月1日から 2025年4月1日から
守られる人 事業主が雇用する労働者(非正規・派遣を含む) 都内で業務に従事する「就業者」(経営者、フリーランス、ボランティア等も含むと都の指針)
定義の骨格 顧客等の言動/社会通念上許容される範囲を超える/就業環境が害される 顧客等から就業者に、その業務に関して行われる「著しい迷惑行為」で、就業環境を害するもの
場所・範囲 業務を遂行する「職場」(訪問先、電話・SNSを含む) 「あらゆる場において」禁止。労働時間外でも業務遂行に影響すれば該当する可能性(都の指針)
求める内容 事業主に措置義務。顧客等には注意を払う努力義務 何人も行ってはならない(罰則なし)。事業者の措置と顧客等の注意は努力義務

条例は「著しい迷惑行為」を、暴行、脅迫その他の違法な行為、または正当な理由がない過度な要求、暴言その他の不当な行為と定めています(条例第2条第4号)。条例の適用にあたっては顧客等の権利を不当に侵害しないよう留意するとされ(第5条)、都の指針(ガイドライン)も、正当な理由に基づく相当な手段・態様の申出(苦情・意見・要望等)自体は妨げられないとしています。都内で事業を行う会社には両方がかかり、法律上の措置義務の対象は国の定義によるカスハラです。

「著しい迷惑行為」という言い方

「著しい迷惑行為」は、都条例より前から国の資料で使われてきた言葉です。2020年6月1日に適用されたパワハラ防止指針(令和2年厚生労働省告示第5号)は、顧客等からの著しい迷惑行為(暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等)について、相談体制の整備や被害者への配慮を、事業主が行うことが「望ましい取組」として示しました(同指針7)。

厚生労働省が2023年12月〜2024年1月に行った実態調査も、「顧客等からの著しい迷惑行為」の発生状況を尋ねています(企業マニュアル 印字p.5)。調査の数字を引用するときは、指針51号の定義ができる前の、この言い方で尋ねた結果であることを添えると正確です。2026年10月1日からは、法律の措置義務の対象として指針51号の定義が使われています。

よくある誤解

Q. 法改正で、迷惑な客を罰したり出入り禁止にしたりできるようになったのですか?

改正法は事業主に雇用管理上の措置を義務付けるもので、事業主が何らかの措置を行う法的な権利や権限を新たに設けるものではないと、厚生労働省は説明しています(解釈Q&A 問17)。対処の内容は各事業主が実態に応じて定めるもので、指針は特に悪質と考えられるものへの対処の例として、行為者への警告文の発出や店舗・施設等への出入りの禁止を挙げています(指針4(4))。顧客等に課されているのは、労働者の就業環境を害さないよう必要な注意を払う努力義務です(法第34条第5項)。法の罰則規定(第49条〜第51条)に、顧客等の言動を対象とするものはありません。暴行などは、行為の内容によって犯罪に該当し得ます(企業マニュアル 印字p.24)。

Q. カスハラかどうかは、労働局が判定してくれるのですか?

都道府県労働局は、個々の顧客等の言動がカスハラに該当するかどうかの判断は行いません(解釈Q&A 問45)。事実関係を迅速かつ正確に確認するのは事業主の義務で、事業主は、確認した事実をもとに必要な措置を講じます。

Q. 嫌がらせ目的でなければ、カスハラではないのですか?

指針は、言動の目的を、経緯や状況、態様・頻度・継続性、行為者との関係性などと並ぶ考慮要素の一つとして挙げています(指針2(5))。判断は「言動の内容」と「手段や態様」に着目して総合的に行い、どちらか一方だけが範囲を超える場合でも該当し得ます。

次の一歩

企業の担当者の方

2026年10月1日から、事業主には、相談に応じて適切に対応するための体制の整備や、対応の実効性を確保するための抑止の措置など、雇用管理上必要な措置が義務になりました(法第33条第1項)。具体的な措置は指針4に定められています。企業マニュアルは、業種や業態の違いを踏まえて、あらかじめ自社でカスハラの判断基準を定めておくことが求められるとしています(印字p.24)。

カスハラを受けている従業員の方

まず勤務先の相談窓口に相談してください。2026年10月1日から、事業主に相談体制の整備が義務付けられ、相談したことを理由とする解雇その他の不利益な取扱いも禁止されています(法第33条第1項・第2項)。受けた言動について事実関係を確認し、必要な措置を講じるのは会社です(解釈Q&A 問45)。会社の対応(相談体制や、相談したことによる不利益な取扱いなど)をめぐって会社との間で紛争になったときは、都道府県労働局に解決の援助を求めることができます(法第35条・第36条)。身の危険を感じたときは、ためらわず警察に通報してください(企業マニュアル 印字p.30)。

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参考資料

いずれも2026年9月24日に確認しました。

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