カスハラに罰則はある?顧客側と企業側で分けて整理

カスハラという行為そのものに罰則を定めた国の法律はありません。顧客は行為が刑法の罪に当たれば処罰され、損害を与えれば民法の賠償責任を負うことがあります。企業は措置を講じなくても罰金はありませんが、助言・指導・勧告と公表の対象になり、報告の求めに応じなければ過料があります。条例の違い(東京都・桑名市と、2026年10月に成立した三重県の罰則付き条例)とあわせて、条文で整理します。

更新
2026年10月17日
法令・資料の確認
2026年10月5日
読了の目安
13分
目次
  1. 顧客側と企業側の早見表
  2. 顧客側:責任は「カスハラ」という名前ではなく、行為の中身で決まる
  3. 条例:罰則があるかどうかは自治体で違う
  4. 企業側:措置を怠っても罰金はないが、行政の手続と民事の責任がある
  5. 「損害賠償」は向きを分けて考える
  6. 罰則がないことを、実務でどう受け止めるか
  7. よくある質問
  8. 自社の対応状況を確かめる
  9. 参考資料

カスハラという行為そのものに罰則を定めた国の法律はありません。顧客側は、暴行や脅迫、居座りなどの行為が刑法の罪に当たれば処罰され、損害を与えれば民法上の損害賠償の責任を負うことがあります。企業側は、2026年10月1日に義務になった措置を講じていなくても罰金はありません。ただし、助言・指導・勧告の対象になり、勧告に従わなければ公表されることがあります。報告を求められて報告しない・虚偽の報告をすると、20万円以下の過料です。

条例は自治体ごとに違います。東京都の条例に罰則はありません。三重県では、知事の禁止命令に違反した人に罰金などを科す条例が、2026年10月16日に県議会で可決されました。施行は2027年4月1日です。

顧客側と企業側の早見表

根拠 顧客(行為者) 企業(事業主)
労働施策総合推進法 言動に必要な注意を払う努力義務。罰則なし(第34条第5項) 措置義務(第33条)。違反に罰金はなく、助言・指導・勧告、勧告に従わなければ公表(第42条)。報告をしない・虚偽の報告は20万円以下の過料(第45条第1項、第51条)
刑法 暴行、脅迫、強要、威力業務妨害、不退去などに当たれば処罰の対象 対策をしないこと自体を罰する規定はない
民法・労働契約法 損害を与えれば不法行為の損害賠償(民法第709条・第710条) 従業員の安全への配慮を欠けば、安全配慮義務違反として従業員から損害賠償を請求されることがある(労働契約法第5条)
条例 東京都は罰則なし。桑名市は警告後も改善が不十分なら氏名等を公表できる。三重県は禁止命令違反に罰金等(2027年4月1日施行) 東京都・桑名市・三重県とも、事業者の取組は努力義務

顧客側:責任は「カスハラ」という名前ではなく、行為の中身で決まる

労働施策総合推進法が顧客に求めるのは努力義務だけ

2026年10月1日に施行された改正法は、顧客等についてこう定めています。「顧客等は、顧客等言動問題に対する関心と理解を深めるとともに、労働者に対する言動が当該労働者の就業環境を害することのないよう、必要な注意を払うように努めなければならない。」(労働施策総合推進法 第34条第5項)

これは努力義務で、違反への罰則はありません。同法の罰則規定(第49条〜第51条)にも、顧客等の言動を対象にしたものはありません。

刑法:行為が罪に当たれば処罰される

カスハラにあたる言動の多くは、刑法の罪にも当たり得ます。厚生労働省の企業マニュアル(令和8年度改訂版)は、指針が挙げる行為の類型ごとに、抵触し得る刑法の条文を示しています(印字p.12〜13)。法定刑は刑法の現行の条文で確かめました。

企業マニュアルの行為の類型 罪名(刑法の条文) 法定刑
身体的な攻撃(暴行、傷害等) 暴行罪(第208条) 2年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料
身体的な攻撃(暴行、傷害等) 傷害罪(第204条) 15年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金
精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要等) 脅迫罪(第222条) 2年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金
同上 強要罪(第223条) 3年以下の拘禁刑
同上 名誉毀損罪(第230条) 3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金
同上 侮辱罪(第231条) 1年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料
同上 信用毀損及び業務妨害(第233条) 3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金
同上 恐喝罪(第249条) 10年以下の拘禁刑(未遂も罰する。第250条)
威圧的な言動 威力業務妨害罪(第234条) 第233条と同じ
拘束的な言動(不退去、居座り、監禁) 不退去罪(第130条) 3年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金
拘束的な言動(不退去、居座り、監禁) 逮捕・監禁罪(第220条) 3月以上7年以下の拘禁刑
言動の内容が社会通念上許容される範囲を超えるもの 不同意わいせつ罪(第176条) 6月以上10年以下の拘禁刑

表を読むときは、次の3点に気をつけてください。

  • 罪に当たるかどうかは、行為の中身と状況から、捜査機関と裁判所が判断します。表は「当たり得る」罪の一覧で、カスハラと判断した言動がそのまま罪になるわけではありません
  • 名誉毀損罪と侮辱罪は、告訴がなければ公訴を提起できません(刑法第232条)
  • 企業マニュアルは軽犯罪法も挙げています(印字p.13)。東京都の指針は、ストーカー行為等の規制等に関する法律や軽犯罪法などの特別刑法も違法な行為に含めています(都の指針 p.2)

指針は、特に悪質と考えられるものへの対処の例として、暴行、傷害、脅迫などの犯罪に該当し得る言動を警察へ通報することを挙げています(告示51号 4(4)、p.22〜23)。通報するときの判断と伝え方は、カスハラで警察に相談・通報するときにまとめています。

民法:損害を与えれば賠償の責任を負うことがある

故意または過失で他人の権利や法律上保護される利益を侵害した人は、生じた損害を賠償する責任を負います(民法 第709条)。身体や名誉を侵害した場合は、財産以外の損害(精神的な苦痛など)も賠償の対象です(第710条)。都の指針も、財産的・精神的損害が生じた場合は、不法行為責任に基づく損害賠償請求権が発生する可能性があるとしています(p.2)。

都の指針はさらに、条例の定義の要素をすべて満たさない場合でも、「著しい迷惑行為」そのものは刑法等で処罰されたり、民法に基づいて損害賠償を請求されたりする可能性がある点に留意するよう求めています(p.2)。

賠償のほかに、行為をやめさせる手段もあります。指針は対処の例に、民事保全法に基づく仮処分命令の申立てを挙げています(4(4)、p.23)。公表された裁判例では、保険金の請求をめぐって多い日で1日19回、長いときは1回90分の電話を続けた契約者に対し、損害保険会社の従業員へ電話の応対や面談を強要してはならないとする仮処分が認められました(東京高裁 平成20年7月11日決定)。

条例:罰則があるかどうかは自治体で違う

条例の有無と中身は自治体ごとに違います。ここでは、一次資料で確かめた3つの自治体を取り上げます。

東京都:禁止規定はあるが、罰則はない

東京都の条例は、「何人も、あらゆる場において、カスタマー・ハラスメントを行ってはならない。」と定めています(第4条)。都の指針は「当該禁止規定に違反した場合の罰則規定はない」としたうえで、行為の内容によっては、条例とは別に刑法等による処罰や民法上の損害賠償の対象になり得ると説明しています(p.1〜2)。事業者の取組は努力義務です(第14条)。国の法律との違いは「東京都カスハラ防止条例とは」で詳しく扱っています。

桑名市:警告後も改善が不十分なら、氏名等を公表できる

桑名市の条例(2025年4月1日施行)は、罰金などの刑罰の規定を置かず、市による認定と公表の仕組みを定めています。

  1. 就業者または事業者等が、市長に確認(行為者を特定しない判断)または認定(行為者を特定した判断)を求める。市長は委員会に諮問する(第8条)
  2. 確認または認定をしたときは、事案の概要を公表する。認定したときは、行為者に警告する(第9条第1項)
  3. 警告しても状況の改善が不十分なときは、行為者に意見を述べる機会を与え、委員会の意見を聴いたうえで、氏名などを公表できる(第9条第2項)

三重県:禁止命令に違反すると罰金等を科す条例

三重県議会は2026年10月16日、「三重県カスタマーハラスメント防止条例案」(議案第98号)を原案どおり可決しました。賛成45、反対0です(議案審議結果、議員別の賛否)。仕組みは、県が2026年6月に公表した最終案(県のページ)で次のとおりです。県議会の委員会で県が示した条例案の概要も、この3点は同じ内容です(説明資料 印字p.2〜3)。

  1. 事業者が中止の要求などをしても止まらない「特定カスタマーハラスメント」について、事業者が知事に申し出る(第15条)
  2. 知事は、三重県カスタマーハラスメント防止対策審査会の意見を聴いたうえで、行為者に禁止命令を出せる。命令の内容を公表できる場合があり、命令の効力は1年以内(第16条)
  3. 禁止命令に違反した人は、50万円以下の罰金又は拘留若しくは科料(第21条)

特定カスタマーハラスメントには、正当な理由なく長時間にわたり、または反復して、金銭や物品の要求、謝罪や面会の要求、拒否したのに続く著しく対応困難な要求、卑わいな言動、つきまといを行うことなどが当たります(第15条各号)。大声や虚偽の事実の申立てなど、就業者に著しく不安を抱かせる方法でこれらの要求をすることや、就業者を著しく羞恥させる、または不安を覚えさせる方法で卑わいな言動やつきまといを行うことも含まれます。

施行は2027年4月1日です。一部の規定は公布の日から施行され、施行前に指針の策定などの準備を進められるよう、準備行為の規定が置かれています(説明資料 印字p.2)。6月の最終案の附則は2027年4月1日の施行だけを定めていたので、この点は提出された条例案で加わっています。公布日と条例番号は、2026年10月17日時点の三重県公報(第763号まで)に載っておらず、確認できていません。条文を引用するときは、公布後の公報や県の例規集で確かめてください。

3つの自治体とも、罰則や公表の対象は行為者です。事業者に罰則を科す規定は置いていません。事業所のある都道府県・市町村に条例があるかどうかは、その自治体の例規集で確かめてください。

企業側:措置を怠っても罰金はないが、行政の手続と民事の責任がある

行政の手続(労働施策総合推進法)

措置義務(第33条第1項)と、相談したことなどを理由とする不利益な取扱いの禁止(第33条第2項)について、法律は次の手続を定めています。

  1. 報告の請求:厚生労働大臣は、事業主に報告を求めることができる(第45条第1項)
  2. 助言・指導・勧告:法律の施行に関し必要があると認めるとき、事業主に助言、指導または勧告ができる(第42条第1項)。大臣の権限は、一部を都道府県労働局長に委任できる(第46条)
  3. 公表:第33条第1項・第2項に違反している事業主が勧告に従わなかったときは、その旨を公表できる(第42条第2項)
  4. 過料:第45条第1項の報告をしない、または虚偽の報告をした者は、20万円以下の過料(第51条)

過料は報告に関する違反への制裁で、措置を講じていないこと自体に科されるものではありません。罰則規定の第49条〜第51条に、第33条の違反そのものを対象にしたものはありません。

労働者の側からは、措置義務などをめぐる紛争について、都道府県労働局長に解決の援助を求めたり、調停を申請したりできます。それを理由とする解雇その他の不利益な取扱いも禁止されています(第36条・第37条)。条文の流れは「カスハラ対策の義務化とは」の「対応しないとどうなるか」で整理しています。

行政の執行の実績(パワハラの数字)

厚生労働省が公表している最新の集計は令和7年度(2025年4月〜2026年3月)の分で、2026年10月1日に始まったカスハラの措置義務の分は含まれていません。同じ法律でパワハラの防止措置(集計の当時は第30条の2第1項、2026年10月1日施行版では第31条第1項)を見ると、労働局の動きは次のとおりです(厚生労働省「令和7年度の都道府県労働局雇用環境・均等部(室)における雇用均等関係法令の施行状況について」 p.9〜10)。

  • 相談:パワハラに関する相談のうち、「労推法違反の疑いのある相談」は43,931件。違反と確定した件数ではなく、会社の数でもありません
  • 是正指導:労働局は3,034事業所で雇用管理の実態を把握し、法違反が確認された1,714事業所に2,525件の是正指導を行いました。指導事項のうち「パワーハラスメント防止措置(第30条の2第1項関係)」は1,524件(60.4%)です。これは指導事項の数で、事業所の数ではありません
  • 推移:防止措置についての指導事項は、令和5年度2,242件、令和6年度1,698件、令和7年度1,524件でした

勧告に従わなかったときの公表(第42条第2項)は、法律に定められた仕組みです。ハラスメントの措置義務の違反で実際に公表された例は、編集部では確認できていません(2026年10月12日時点)。

民事:従業員から安全配慮義務違反を問われることがある

使用者は、労働契約に伴い、労働者が生命・身体等の安全を確保しつつ労働できるよう、必要な配慮をするものとされています(労働契約法 第5条)。企業マニュアルは、カスハラへの対応を怠った結果、従業員の心身に被害が生じた場合には、安全配慮義務違反を理由に従業員等から損害賠償請求等を受ける可能性があると説明しています(印字p.1)。

公表された裁判例では、会社が事前にどんな対応を決めていたかで、結論が分かれています。夜勤中の看護師がせん妄状態の入院患者から暴行を受けた事案では、ナースコールの際に応援に駆け付けることを周知していなかったとして安全配慮義務違反が認められ、約2,000万円の賠償が命じられました(東京地裁 平成25年2月19日判決)。一方、コールセンターで視聴者からわいせつ発言や暴言を受けた事案では、会社が対応のルールを定めて運用していたとして、安全配慮義務違反は認められませんでした(東京高裁 令和4年11月22日判決)。

ほかの裁判例とあわせた詳しい内容は「カスハラ事例集」にあります。

「損害賠償」は向きを分けて考える

「カスハラ 損害賠償」という言葉には、向きの違う3つの話が混ざっています。

  • 顧客が会社や従業員に損害を与えた:顧客が民法上の賠償責任を負うことがある(上の「民法」の節)
  • 会社が従業員を守る配慮を欠いた:会社が従業員から安全配慮義務違反を問われることがある(上の「民事」の節)
  • 顧客が会社に損害賠償を求めてきた:商品やサービスの欠陥を根拠にした補償の求めは、正当な申出になり得ます。一方、指針は「商品やサービス等の内容と無関係である不当な損害賠償要求をすること」をカスハラの例に挙げています(告示51号 2(5)イ④、p.7)

3つめの見分け方は「正当なクレームとカスハラの違い」で扱っています。

罰則がないことを、実務でどう受け止めるか

ここからは編集部の提案です。

会社にとって、罰金がないことは対応しなくてよいことを意味しません。措置は2026年10月1日から法律上の義務です。編集部は、報告を求められたときに説明できるよう、方針、周知の記録、相談体制、相談への対応の記録を残しておくことをすすめます。どこまで揃っているかは「カスハラ対策チェックリスト」で確かめられます。

改正法は、事業主が何らかの措置を行う法的な権利や権限を新たに設けるものではありません(解釈事項 問17、印字p.22)。出入りの禁止や警告文などの対処は、各社が実態に応じて定め、法令の範囲で行います。

現場で顧客に向き合うときは、次の順で考えると、罰則の知識を対応に生かせます(編集部の提案)。

  1. 犯罪に該当し得る言動(暴行、傷害、脅迫など)は、まず従業員の安全を確保して警察へ通報する
  2. やり取りの日時、言動、対応者を記録し、録音・録画のルールがあればそれに沿って残す(「カスハラの証拠・記録は何を残す?」)
  3. 繰り返しの電話や居座りが続き、賠償や仮処分を検討するときは、弁護士に相談する

顧客に「それは犯罪です」と断定して伝えることは避け、行為をやめるよう求め、続くなら警察に通報すると伝える形をすすめます。罪に当たるかどうかを判断するのは会社ではないからです。初動の進め方は「現場の初動対応」にまとめています。

よくある質問

措置義務に違反すると、すぐに会社名が公表されますか

公表できるのは、第33条第1項・第2項に違反している事業主が、勧告を受けても従わなかったときです(第42条第2項)。法律は勧告のほかに、報告の請求(第45条第1項)や助言・指導(第42条第1項)も定めています。

従業員が顧客を訴えたり、処罰を求めたりできますか

民事では、損害を受けた従業員や会社が、行為者に損害賠償を請求できる場合があります(民法第709条・第710条)。刑事では、罪に当たり得る行為を警察に相談・通報できます。名誉毀損罪と侮辱罪は、告訴がなければ公訴を提起できません(刑法第232条)。どの手段を使うかは、弁護士や警察に相談して決めることになります(弁護士に相談するとき、警察に通報するとき)。

東京都の条例に違反すると罰せられますか

条例そのものに罰則はありません。ただし、行為が刑法の罪に当たれば処罰の対象になり、損害を与えれば民法上の賠償責任を負うことがあります(都の指針 p.1〜2)。

三重県の条例はいつから適用されますか

2027年4月1日に施行されます(一部の規定は公布の日から)。条例は2026年10月16日に県議会で可決されました。公布日と条例番号は、2026年10月17日時点では確認できていません。

自社の対応状況を確かめる

罰則の有無を確かめたら、次は自社の措置がどこまで整っているかを確かめましょう。当社の対応状況チェックでは、カスハラと求職者等セクハラの対策を8つの領域・16問で確かめられます。登録は不要で、回答は送信されません。

参考資料

三重県の条例の成立と施行日は2026年10月17日、令和7年度の施行状況は2026年10月12日、それ以外は2026年10月5日に確認しました。

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