パワハラやセクハラの相談を受けたら、会社はまず事実関係を迅速かつ正確に確認します。ハラスメントの事実が確認できれば、被害者への配慮と行為者への措置を行い、確認できてもできなくても再発防止の措置を講じます。この4つと、全段階を通じたプライバシーの保護、相談などを理由に不利益な取扱いをされない旨を定めて周知することは、厚生労働省の指針が事業主に「講じなければならない」と定める措置です。
この記事は、社内の人が行為者になるハラスメント(パワハラ、セクハラ、妊娠・出産等に関するハラスメント、育児・介護休業等に関するハラスメント)の相談を受けた後の流れを、人事担当者が進める順に整理したものです。顧客や取引先が行為者になるカスハラは流れが異なるため、カスハラ対応フローで扱っています。採用活動中の求職者等へのセクハラは求職者等へのセクハラ対策を参照してください。
相談を受けた後に会社が講じる措置
相談を受けた後の対応は、指針では「事後の迅速かつ適切な対応」と呼ばれています。パワハラの指針は、相談の申出があった場合に、事実関係の迅速かつ正確な確認と適正な対処として、次の措置を講じなければならないとしています(パワハラ指針 4(3)、p.6〜8)。セクハラ指針(4(3))、妊娠・出産等の指針(4(3))、育児・介護休業等の指針(第二の十四(三)ハ)も同じ構造です。
- イ 事実関係の確認:事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認する【義務】
- ロ 被害者への配慮:ハラスメントが生じた事実が確認できた場合、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行う【義務】
- ハ 行為者への措置:同じく確認できた場合、行為者に対する措置を適正に行う【義務】
- ニ 再発防止:改めて方針を周知・啓発するなど再発防止に向けた措置を講ずる。事実が確認できなかった場合も同様【義務】
- 併せて講ずる措置:相談者・行為者等のプライバシーを保護し、その旨を労働者に周知する。相談や事実確認への協力等を理由に不利益な取扱いをされない旨を定め、周知・啓発する【義務】(パワハラ指針 4(4)、p.8)
この記事では、指針本文が「講じなければならない」とする措置を【義務】、指針が「認められる例」として挙げるものを【例】、厚生労働省のハラスメント対策パンフレット(令和8年7月作成)が「ポイント」として示す留意点を【ポイント】と表示します。【例】は限られた選択肢ではなく、事案の内容や状況に応じて選ぶものです。法律の根拠は、パワハラが労働施策総合推進法31条、セクハラが男女雇用機会均等法11条、妊娠・出産等が同法15条、育児・介護休業等が育児・介護休業法25条です。条番号は2026年10月1日施行後のもので、9月30日まではパワハラが30条の2、妊娠・出産等が11条の3でした(新旧対照条文)。
相談を受けた直後:相談者の意向と見通しを確かめる
事実確認を始める前に、相談者と段取りをすり合わせます。茨城労働局が公開している、パワハラの相談を想定した一次対応担当者のためのチェックリストは、相談者のプライバシーを守ること、相談者の了解なく行為者に話をしないこと、相談によって不利益な取扱いを受けないことを説明するよう挙げています。そのうえで、人事部門などに相談内容を伝え、事実関係を確認することや対応案を検討することについて同意を得ます。相談を受けるその場での聞き方と記録の取り方は、ハラスメント相談対応マニュアルにまとめています。
相談者が行為者や他の従業員からの聴取を望まない場合もあります。同じチェックリストは、確認ができなければ会社としてそれ以上の対応(行為者への指導や処分等)はできないことを説明し、相談者の意向を尊重して対応するとしています。ただし、聴取をしない場合でも、方針の再周知などの再発防止は講じます。指針は事実を確認できなかった場合も再発防止の措置を講ずるとしており(4(3)ニ)、聴取をしないために確認できない場合もこれに当たると編集部は整理しています。
見通しも伝えます。パンフレットは、対応に時間を要する場合はその状況や必要な期間等を相談者に伝えるよう求めています【ポイント】(p.30)。事実確認が終わっていなくても、当事者の状況や事案の性質に応じて、被害の拡大を防ぐため臨機応変に対応するとしています【ポイント】(p.31)。相談者から自殺を暗示する言動があった場合は、産業医などの医療専門家へ速やかに相談するよう、茨城労働局のチェックリストは示しています。
相談の時点では、ハラスメントに当たるかどうかを決める必要はありません。指針は、該当するか否か微妙な場合も広く相談に対応するよう求めています【義務】(4(2)ロ)。勤務時間外の懇親の場で起きた言動でも、実質上職務の延長と考えられるものは「職場」に当たり、個別に判断します(解釈事項 問24、p.31)。
事実確認の進め方
誰が確認するか
指針が事実確認の例に挙げる担い手は、相談窓口の担当者、人事部門、専門の委員会等です【例】(パワハラ指針 4(3)イ①)。パンフレットは、事案が起きてから誰がどう対応するかを検討していては対応が遅れるため、相談窓口と個別事案に対応する部署との連携や手順をあらかじめ定めておくよう求めています【ポイント】(p.31)。確認する人は、公正な立場で真摯に対応します【ポイント】(p.30)。
相談の相手が人事の責任者や経営者自身のこともあります。その場合に誰が確認するかも、手順の中で決めておくことを編集部は勧めます(指針に定めのない、当社の実務上の提案です)。
相談者と行為者の双方から聞く
指針の例は、相談者と行為者の双方から事実関係を確認することです【例】(4(3)イ①)。その際、相談者の心身の状況や、言動が行われた際の受け止めなどの認識にも適切に配慮します。パンフレットは、当事者の言い分や希望を十分に聴くよう求めています【ポイント】(p.31)。
聞くときに押さえる点が2つあります。1つは、相談者が行為者に迎合的な言動をしていたとしても、それが必ずしもハラスメントを受けたことを否定する理由にはならないことです【ポイント】(p.31)。もう1つは、セクハラでは性的な言動があったことが確認の中心になるのに対し、パワハラや妊娠・出産等、育児・介護休業等に関するハラスメントでは、業務上の必要性や言動の前後関係も含めて判断する必要があることです【ポイント】(p.31)。
主張が食い違うときは第三者から聞く
相談者と行為者の主張が一致せず、事実の確認が十分にできないと認められる場合は、第三者からも事実関係を聴取する等の措置を講じます【例】(4(3)イ①)。聞いた人には、プライバシーを守ることと、協力したことを理由に不利益な取扱いをしないことを伝えてから始めます。会社の対応に協力して事実を述べたことを理由とする不利益な取扱いは、法律で禁じられています(労推法31条2項ほか)。
確認が困難なときは第三者機関へ
事実関係を確認しようとしたが困難な場合などには、都道府県労働局の調停の申請を行うことその他、中立な第三者機関に紛争処理を委ねることが例に挙げられています【例】(4(3)イ②。調停の根拠は労推法37条、均等法24条、育介法52条の5。9月30日までは労推法30条の6、均等法18条)。
状況ごとの進め方
| 状況 | 進め方 | 根拠 |
|---|---|---|
| 相談者が行為者への聴取を望まない | 確認ができなければ会社としてそれ以上の対応(指導・処分等)はできないことを説明し、意向を尊重する。再発防止の措置は講じる | 茨城労働局チェックリスト p.1、指針 4(3)ニ |
| 確認前に被害が続くおそれがある | 事実確認の完了を待たず、被害の拡大を防ぐ対応を臨機応変に取る | パンフレット p.31【ポイント】 |
| 双方の主張が一致しない | 第三者からも事実関係を聴取する | 指針 4(3)イ①【例】 |
| 確認しようとしたが困難 | 調停の申請その他、中立な第三者機関に紛争処理を委ねる | 指針 4(3)イ②【例】 |
| セクハラの行為者が取引先など他社の従業員・役員 | 必要に応じて、その会社に事実確認への協力を求める | セクハラ指針 4(3)イ(p.4〜5) |
| 事実が確認できた | 被害者への配慮と行為者への措置へ進む | 指針 4(3)ロ・ハ |
| 事実が確認できなかった | 再発防止の措置を講じる | 指針 4(3)ニ |
事実確認の期限や、記録を残す期間について、指針とパンフレットに定めはありません。求められているのは「迅速かつ正確に」確認することで、パンフレットは、被害の継続・拡大を防ぐため相談があったら迅速に事実確認を開始するよう求めています【ポイント】(p.31)。
事実が確認できたとき:被害者への配慮と行為者への措置
被害者への配慮は速やかに
ハラスメントが生じた事実が確認できたら、速やかに被害者への配慮のための措置を行います【義務】(4(3)ロ)。パワハラとセクハラの指針が挙げる例は次のとおりです【例】。
- 被害者と行為者の関係改善に向けての援助
- 被害者と行為者を引き離すための配置転換
- 行為者の謝罪
- 被害者の労働条件上の不利益の回復
- 管理監督者や事業場内産業保健スタッフ等による、被害者のメンタルヘルス不調への相談対応
- 調停その他中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置
パンフレットは、ハラスメントにより休業を余儀なくされた場合などで本人が希望するときは、状態に応じて原職または原職相当職へ復帰できるよう積極的に支援することも、配慮の措置に含まれるとしています【ポイント】(p.32)。
行為者への措置は就業規則にもとづいて
行為者に対する措置の例は、就業規則その他の服務規律等を定めた文書のハラスメントに関する規定等に基づき、必要な懲戒その他の措置を講ずることです【例】(4(3)ハ①)。あわせて、事案の内容や状況に応じ、関係改善に向けての援助、引き離すための配置転換、行為者の謝罪等を行います。調停などの紛争解決案に従った措置も例に挙がっています(4(3)ハ②)。
指針の例が「規定等に基づき」としているとおり、懲戒は就業規則等に定めた規定を根拠に行います。常時10人以上の労働者を使用する会社は、制裁の定めをする場合、その種類と程度を就業規則に記載しなければなりません(労働基準法89条9号)。懲戒が、行為の性質や態様その他の事情に照らして客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、権利の濫用として無効になります(労働契約法15条)。どの処分が相当かは事案ごとの判断で、迷う場合は弁護士や社会保険労務士に相談します。
パンフレットは、事実が確認されても、話が広がるのを避けるために内密に処理したり、当事者の解決に委ねたりする対応は、問題をこじらせかねないとしています【ポイント】(p.33)。行為者への制裁は公正なルールに基づいて行い、処分だけでなく、その言動がなぜハラスメントに当たり、どこに問題があるのかを理解させることが大切だとしています【ポイント】(p.33)。処分の重さを決めるときの考え方は、ハラスメント行為者の懲戒処分にまとめています。
事実が確認できなかったとき
事実が確認できなかった場合も、再発防止の措置は同じように講じます【義務】(4(3)ニ)。パンフレットは、事実が確認できなくても、これまでの防止対策に問題がなかったかを再点検し、改めて周知を図るよう求めています【ポイント】(p.33)。
パンフレットに掲載された「相談・苦情への対応の流れの例」は、事実関係の有無を判断した結果、誤解であると判断した場合には、相談者と相手方のそれぞれに説明する流れを示しています(例7、p.51)。「ハラスメントではなかった」で終わらせず、どう判断したのかを双方に伝えるところまでを手順に入れておきます。