ハラスメントの相談を受ける担当者は、最初に「秘密が守られること」「相談したことで不利益に扱われないこと」「この後の流れ」を伝え、意見や判断を挟まずに最後まで話を聞きます。聞き終えたら、いつ・誰から・どのような言動があったか、目撃者の有無、本人の希望を相談者と一緒に確かめて記録し、人事部門などへ伝えることに同意を得てから終えます。担当者が相談に適切に対応できるようにすることは、厚生労働省の指針で事業主が講じなければならない措置です。指針は、留意点を書いたマニュアルに基づいて対応することを、その措置の例に挙げています。
この記事では、厚生労働省が公開しているチェックリスト、相談記録票、相談窓口担当者向けの研修資料にそって、相談を受けるその場の手順をまとめます。対象は、社内の人が行為者になるハラスメント(パワハラ、セクハラ、妊娠・出産等に関するハラスメント、育児・介護休業等に関するハラスメント)の相談です。相談を受けた後の事実確認や措置はハラスメント相談を受けた後の対応、顧客や取引先が行為者になるカスハラの相談の受け方はカスハラ相談窓口の作り方で扱っています。
相談対応マニュアルは、指針のどこに位置づくか
パワハラは労働施策総合推進法31条1項、セクハラは男女雇用機会均等法11条1項が、事業主に「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置」を義務づけています。措置の中身は厚生労働省の指針が定めていて、相談を受ける担当者に関わるのは次の2つです。
- 担当者が適切に対応できるようにする:相談窓口の担当者が、相談の内容や状況に応じ適切に対応できるようにする。被害者が萎縮して相談をためらう例もあることを踏まえ、相談者の心身の状況や受け止めにも配慮しながら、ハラスメントに当たるか微妙な場合も広く相談に対応する【義務】(パワハラ指針 4(2)ロ、PDF p.6)
- プライバシーを守る:相談への対応に当たって、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨を労働者に周知する【義務】(同 4(4)イ、PDF p.8)
指針は、それぞれの措置を講じていると「認められる例」も挙げています。4(2)ロの例は、担当者と人事部門が連携を図れる仕組みにすること、「あらかじめ作成した留意点などを記載したマニュアルに基づき対応すること」、担当者に相談を受けた場合の対応についての研修を行うことの3つです。4(4)イの例にも、プライバシーの保護に必要な事項をあらかじめマニュアルに定め、それに基づいて対応することが入っています。セクハラ指針(4(2)ロ・4(4)イ)、妊娠・出産等の指針(4(2)ロ)、育児・介護休業等の指針(第二の十四(三)ロ(ロ))にも、同じマニュアルの例があります。
この記事では、指針本文が「講じなければならない」とする措置を【義務】、指針が「認められる例」として挙げるものを【例】、厚生労働省のハラスメント対策パンフレット(令和8年7月作成)が示す留意点を【ポイント】と表示します。義務になっているのは、担当者が相談の内容や状況に応じ適切に対応できるようにすることで、マニュアルはそのための手段の例です。例は措置を講じていると「認められる例」なので、マニュアルという名前の文書がないことだけで直ちに措置を欠くことになるとは限らない、というのが編集部の整理です。それでも、担当者が交代したり、まれにしか相談が来なかったりする会社では、手順を書いて残しておくと対応がぶれにくくなります(当社の実務上の提案です)。
窓口を置くこと自体の義務の範囲は、相談窓口の設置義務で整理しています。
使える公的な素材
担当者向けの手引きを一から書く必要はありません。厚生労働省のポータルサイト「あかるい職場応援団」に、そのまま使える素材があります。
| 資料 | 中身 | 入手先 |
|---|---|---|
| 相談窓口(一次対応)担当者のためのチェックリスト | 受付から同意を得るまでの7項目、言ってはいけない言葉10例、自殺を暗示する言動への対応 | 導入マニュアルの参考資料10(PDF p.73) |
| パワーハラスメント相談記録票(表・裏) | 相談者の情報、いつ・誰から・どのような言動か、目撃者、類型の整理、生活や心身への影響、相談者の希望 | 導入マニュアルの参考資料11(PDF p.74〜75) |
| 相談受付票、行為者聞き取り票 | 受付と、行為者から話を聞くときの記入用紙 | 資料ダウンロード(zip) |
| 相談窓口担当者向け研修資料 | 一次対応の心構え、傾聴、言ってはいけない言葉、事実確認から再発防止までの流れ。対象はパワハラ・セクハラ・妊娠出産等・育児介護休業等 | 職場におけるハラスメント対策(相談窓口担当者向け研修)(令和7年度厚生労働省委託事業) |
| 相談対応の失敗例・成功例 | 担当者が勝手に判断した例、相談者の了解なく事実確認をした例など | パワハラ対策7つのメニュー【6】場を提供する |
パワーハラスメント対策導入マニュアル(第4版)は、パワハラ防止の措置が義務になる前に作られた実務の手引きです。以下では、義務の根拠ではなく実務の参考として引きます。チェックリストと記録票はパワハラを想定した書式ですが、研修資料は同じ内容をパワハラ以外のハラスメントにも広げて説明しています。
相談を受ける前に決めておくこと
相談が来てから考えると、場所や時間の都合で相談者を待たせることになります。導入マニュアルと研修資料が、受付の前に整えておくよう挙げているのは次の6つです。
- 場所:相談者のプライバシーが確保できる部屋を用意する(導入マニュアル PDF p.37、チェックリスト PDF p.73)
- 受け付ける方法:面談に限らず、電話やメールなど複数の方法で受けられるようにする(同 PDF p.37、研修資料 PDF p.10)
- 担当者の組み合わせ:男女を含めた複数の担当者を選ぶとより良いとされています(導入マニュアル PDF p.36)。チェックリストは、相談者が女性の場合はできる限り女性の担当者も同席できるようにするとしており、研修資料は、相談者と同性の担当者を含む複数名で対応する形を示しています(研修資料 PDF p.8)
- 1回の時間の目安:導入マニュアルとあかるい職場応援団のページは「長くても50分程度」、研修資料は「長くとも1時間程度」としています(導入マニュアル PDF p.38、研修資料 PDF p.10)。どちらも資料の目安で、法令上の上限ではありません
- 連携先:人事担当、相談者の上司、カウンセラー等と連携できるフォロー体制を用意し、相談者本人だけでなく、第三者や行為者からの相談も受けられるようにする(導入マニュアル PDF p.38)
- 緊急時のつなぎ先:相談者から「死にたい」など自殺を暗示する言動があった場合に、産業医などの医療専門家等へつなぐルートを決めておく(同)
担当者の役割は、受付(一次対応)だけの場合と、事実確認まで担う場合があります。受付だけの場合は、その後の調査を人事担当部署などに引き継ぐ仕組みでもよいとされています(導入マニュアル PDF p.36)。どこから人事部門へ引き継ぐかは企業によるため(研修資料 PDF p.8)、自社ではどこで引き継ぐかをマニュアルに書いておきます。
相談を受けるときの手順
チェックリスト(導入マニュアル PDF p.73)の順に沿って並べると、次のようになります。
1. 最初に、秘密・不利益取扱いの禁止・この後の流れを伝える
相談者のプライバシーを守ること、相談者の了解なく行為者に話をしないこと、相談によって社内で不利益な取扱いを受けないことを説明します。続けて、窓口の役割、解決までの流れ、ハラスメントを許さないといった会社の方針を伝えます(チェックリスト)。時間の目安も、始める前に伝えておくとよいとされています(導入マニュアル PDF p.38)。
相談したことや、会社の対応に協力して事実を述べたことを理由とする解雇その他の不利益な取扱いは、法律で禁じられています(労働施策総合推進法31条2項、男女雇用機会均等法11条2項)。担当者が最初に伝える「不利益に扱われない」は、この法律上の禁止にもとづいています。
2. ゆっくり、最後まで聞く
相談者の話をゆっくり時間をかけて聞き、内容の確認を急いで話をせかさないようにします(導入マニュアル PDF p.38)。ハラスメントを受けた心理的な影響から、相談者が理路整然と話せないことがあります。忍耐強く聞くよう努めることが勧められています【ポイント】(パンフレット PDF p.30)。
聞く目的は、相談者が主張する事実と相談者の意向を正確に把握することです。そのため、担当者が自分の意見を言うことは原則として控えます(研修資料 PDF p.12)。軽微に見える内容にも深刻な問題が潜んでいることがあり、ここでの対応次第で相談者の不信感を生むおそれがあります。担当者は詰問にならないよう注意します(導入マニュアル PDF p.38)。
研修資料は、話をきちんと聞いてもらえていると相談者が感じると、担当者との間に信頼関係ができ、相談者は話しやすく、担当者は必要な情報を聞き取りやすくなると説明しています。反対に、担当者が自分の考えを押し付けたり強引に説得したりすると、相談者は困りごとや気持ちを話しにくくなります(研修資料 PDF p.13)。
3. 事実を整理し、相談者と一緒に確かめる
いつ、誰から、どのような行為を受けたか、目撃者はいたかを整理し、相談記録票に記入します。手帳や業務記録などの証拠書類があれば、コピーして保存します(チェックリスト)。担当者が書き取った内容は、その場で相談者に読み返して確かめてもらうと、聞き違いをその場で直せます(当社の実務上の提案です)。
相談者が行為者に合わせるような言動をしていたとしても、それだけでハラスメントを受けたことを否定する理由にはなりません【ポイント】(パンフレット PDF p.31)。「嫌なら断ればよかったのでは」と受け取れる聞き方は避けます。
4. 会社に望むことを聞く
相談記録票の裏面には「相談者の希望」の欄があり、例として、調査してほしい、指導してほしい、配置転換等の人事上の措置、様子を見たい、が挙がっています(導入マニュアル PDF p.75)。研修資料は、会社に望む対応を十分に話せたときや、解決策を相談者が自分で選べたときに、相談者は相談対応に満足しやすいとしています(研修資料 PDF p.13)。
5. 人事部門などへ伝えることに同意を得る
人事担当部署などに相談内容を伝え、事実関係の確認や対応案の検討を進めることについて、相談者の同意を得ます(チェックリスト)。相談者が行為者や他の従業員からの聞き取りを望まない場合は、確認ができなければ会社としてそれ以上の対応(行為者への指導や処分等)はできないことを説明し、相談者の意向を尊重します(同)。聞き取りをしない場合の再発防止の扱いは、相談を受けた後の対応で整理しています。
6. 次の予定と見通しを伝えて終える
1回で話が終わらない場合は、次の相談日を決めて切り上げます。導入マニュアルは、切り上げることで相談者が気持ちを切り替え、落ち着いて考える時間を持てるとしています(PDF p.38)。会社の対応に時間がかかる場合は、その状況や必要な期間等を相談者に伝えます【ポイント】(パンフレット PDF p.30)。
相談者から自殺を暗示する言動があった場合は、ここまでの手順の途中でも、産業医などの医療専門家等へすみやかに相談します(チェックリスト)。