ハラスメントの相談窓口(法律の言葉では「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」)は、パワハラ・セクハラ・妊娠出産等・育児介護休業等に関するハラスメントについて、会社の規模を問わず法律で義務づけられています。2026年10月1日からはカスタマーハラスメント(カスハラ)と求職者等へのセクハラが加わり、6つになりました。窓口は社内の担当者、社内の制度、外部の機関への委託のどれでもよく、社外に置く義務はありません。ただし置くだけでは足りず、従業員に周知し、担当者が適切に対応できるようにするところまでが義務です。
以下、改正後の条文と厚生労働省の指針をもとに、義務の範囲、何をすれば「整備した」と言えるか、社内・社外の答え、自社の窓口を点検する6つの問いを順に確かめます。
相談窓口の設置義務と6つのハラスメントの根拠条文
法律の条文に「窓口」という言葉はありません。労働施策総合推進法(以下、労推法)31条1項は、事業主に「当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」と定めています。この体制の整備として、厚生労働省の指針が、相談への対応のための窓口(相談窓口)をあらかじめ定め、労働者に周知することを求めています(パワハラ指針 4(2)イ、解釈事項 問42)。
男女雇用機会均等法(以下、均等法)と育児・介護休業法(以下、育介法)も合わせると、相談体制の整備が義務になっているハラスメントは次の6つです。
| ハラスメント | 根拠条文(2026年10月1日以降) | 義務の状況 |
|---|---|---|
| パワハラ | 労推法31条1項(9月30日までは30条の2) | 義務(中小企業は2022年4月1日から) |
| セクハラ | 均等法11条1項 | 義務 |
| 妊娠・出産等 | 均等法15条1項(9月30日までは11条の3) | 義務 |
| 育児・介護休業等 | 育介法25条1項 | 義務 |
| カスハラ | 労推法33条1項(新設) | 2026年10月1日から義務 |
| 求職者等セクハラ | 均等法13条1項(新設) | 2026年10月1日から義務 |
6つの条文が使う言葉は、どれも「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」で共通です。カスハラの33条1項だけは、これに加えて顧客等の言動を抑止するための措置も求めています。厚生労働省のパンフレットも表紙で、事業主の対策が義務となっているハラスメントとしてこの6つを挙げています。
中小企業も対象か
対象です。改正労推法は2020年6月1日に施行され、中小企業のパワハラ防止措置も2022年4月1日から義務になりました(それまでは努力義務。厚生労働省リーフレット)。ほかの5つの条文には、会社の規模による区分がありません。自社が中小企業に当たるかどうかで、窓口の要否は変わりません。
2026年10月1日から何が変わったか
改正法(令和7年法律第63号)のうち、この記事で扱う部分の施行日は、政令第17号で2026年10月1日と定められています。この日から、カスハラ(労推法33条)と求職者等セクハラ(均等法13条)の措置義務が新しく始まりました。同じ日に既存の条番号も変わり、パワハラは30条の2から31条へ、妊娠・出産等は均等法11条の3から15条へ移りました(新旧対照条文)。社内規程や研修資料で条番号を引いている場合は、10月1日以降の番号に合わせておくと混乱しません。
このほかに、別の枠組みが2つあります。フリーランス法14条1項は、フリーランスに業務を委託する事業者のうち従業員を使用するものに、フリーランスからの相談に応じる体制の整備を義務づけています(パンフレットは、従業員向けの窓口をフリーランスも利用できるようにすることも可能としています)。東京都カスタマー・ハラスメント防止条例14条1項は体制の整備などを「努めなければならない」とする努力義務で、国の義務とは別のものです。
指針が義務としている2つと「窓口を置く」だけでは足りない理由
各指針は、相談体制の整備として「次の措置を講じなければならない」とし、2つを挙げています(パワハラ指針 4(2)。ほかの5つの指針も同じ構造です。育児・介護休業等の指針では第二の十四(2))。
- イ 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること(求職者等セクハラでは求職者等に周知)
- ロ 窓口の担当者が、相談の内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること
ロには、ハラスメントが現実に起きている場合だけでなく、起きるおそれがある場合や、該当するか微妙な場合も広く相談に対応することが含まれています。被害を受けた人が萎縮して相談をためらう例があることも踏まえるよう求めています。
パンフレットは全てのハラスメントに共通のポイントとして、「窓口をあらかじめ定める」とは形式的に設けるだけでは足りず、実質的な対応が可能な窓口が設けられていることをいう、と説明しています(PDF 29ページ)。そのためには窓口を周知し、利用しやすい体制を整えておくことが必要だとしています。解釈事項の問34も、求職者等の窓口について同じ趣旨を述べています。
指針の中身を、義務・認められる例・望ましい取組に分けると次のとおりです。
| 内容 | 区分 | 根拠 |
|---|---|---|
| 窓口をあらかじめ定め、労働者(求職者等)に周知する | 義務 | 各指針 4(2)イ |
| 担当者が内容や状況に応じて適切に対応できるようにする | 義務 | 各指針 4(2)ロ |
| 相談したこと等を理由に解雇その他不利益な取扱いをしない | 義務(法律) | 労推法31条2項ほか |
| 担当者を定める/制度を設ける/外部の機関に委託する | 認められる例(どれか) | 各指針 4(2)イ、問42 |
| 人事部門(カスハラは関係部門)との連携の仕組み/マニュアル/研修 | 認められる例 | 各指針 4(2)ロ |
| 複数のハラスメントを一元的に受ける窓口 | 望ましい(パワハラ等の4つ) | 各指針の望ましい取組、問11 |
| 面談のほか電話・メールなど複数の受付方法 | 工夫(パンフレット) | パンフレット PDF 29ページ |
「認められる例」は、どれを選んでもかまいません。ただし、上に書いたとおり実質的に対応できることが前提です。「望ましい」「工夫」の行は、取り組むとよいものとして示されており、義務ではありません。
不利益取扱いの禁止は、労推法31条2項・33条2項、均等法11条2項・15条2項、育介法25条2項が、相談したことや対応に協力して事実を述べたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いを禁じています。求職者等セクハラの均等法13条2項が守るのは、求職者等からの相談への対応に協力して事実を述べた労働者です。
法令上は社内でも社外でもよいのか
指針は「相談窓口をあらかじめ定めていると認められる例」として、①相談に対応する担当者をあらかじめ定める、②相談に対応するための制度を設ける、③外部の機関に相談への対応を委託する、の3つを並べています(6つの指針とも同じ)。解釈事項の問42も、担当者を定めることを例の一つとし、外部の機関への委託も例として挙げていると整理しています。
したがって、法令上は社内だけでも、社外だけでも、両方を組み合わせてもかまいません。外部委託は選択肢の1つです。パンフレットの相談窓口の案内文の例(PDF 44ページ)は社内の担当者と「××外部相談窓口」を並べて載せていますが、これも併用の一例として示されたものです。
実際の設置状況は、厚生労働省の委託調査(令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査。令和5年度の調査で、改正前の状況)で確かめられます。「相談窓口の設置と周知」を行っている企業(6,086社)のうち、社内のみが55.7%、社内と社外の両方が41.2%、社外のみが3.0%でした。従業員規模が大きいほど、社内と社外の両方に置く割合が高くなっています(同報告書 PDF 77ページ)。
一元化は「望ましい」で義務ではない
パワハラ・セクハラ・妊娠出産等・育児介護休業等の4つの指針は、ハラスメントが複合的に生じることも想定されることから、一体的な窓口で一元的に相談に応じる体制を整備することが「望ましい」としています(パワハラ指針 5(1) ほか)。例として、窓口で受け付ける相談の種類を明示すること、ある窓口がほかのハラスメントの窓口を兼ねることが挙げられています。望ましい取組なので、窓口をハラスメントごとに分けていること自体で義務を欠くことにはなりません。
どの形を選ぶかの比較(社内と外部それぞれの長所と短所)は相談窓口は社内と外部のどちらがよいかで、外部に委託するときの範囲・報告ルール・費用・契約は相談窓口の外部委託で扱います。ここでは、法令上はどの形でもよいというところまでを押さえてください。