ハラスメントの相談窓口は、法令上は社内に置いても、外部に委託しても、両方を組み合わせてもかまいません。社内と外部で違うのは「最初に誰が話を聞くか」で、事実関係の確認や被害を受けた人への配慮といった相談の後の対応は、どちらを選んでも会社が行います。選ぶときの基準は、自社の従業員が相談をためらう理由をどちらの形なら減らせるか、そして相談したい相手が窓口側の人だったときに別の入口があるか、の2つです。
この記事では、厚生労働省の実態調査にある「相談しなかった理由」と指針をもとに、社内と外部で変わること・変わらないことを整理し、併用の3つの型と、決めるための5つの問いを示します。外部に委託すると決めた後の範囲・報告ルール・費用・委託先の選び方は、相談窓口を外部委託するにはで扱っています。
法令上はどちらでもよい。実際には規模で分かれる
パワーハラスメント(パワハラ)などの指針は、相談窓口を「あらかじめ定めていると認められる例」として、①相談に対応する担当者をあらかじめ定めること、②相談に対応するための制度を設けること、③外部の機関に相談への対応を委託すること、の3つを並べています(パワハラ指針 4(2)イ p.6)。2026年10月1日から措置が義務になったカスタマーハラスメント(カスハラ)と求職者等へのセクシュアルハラスメント(セクハラ)の指針も、同じ3つを挙げています(告示51号 4(2)イ p.16、告示52号 4(2)イ p.11〜12)。外部委託は例の1つで、どちらかを選ばなければならないという定めはありません。義務の範囲そのものは相談窓口は設置義務かで詳しく説明しています。
実際の形は、会社の規模で分かれています。厚生労働省の委託調査(令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査、従業員30人以上の企業が対象で、改正前の状況)によると、相談窓口の設置と周知をしている企業のうち、社内のみが55.7%、社内と社外の両方が41.2%、社外のみが3.0%でした。規模別では、99人以下で社内のみ73.4%・両方21.3%、1000人以上で社内のみ38.2%・両方59.7%です(PDF p.78 図表74)。社外だけに置く会社はどの規模でも少なく、外部を使う会社の多くは社内の窓口と並べています。
違いは「最初に話を聞く人」。相談の後は会社に残る
指針は、窓口を定めること(4(2))と、相談の後の対応(4(3))を別の措置として書いています。相談の後の事実関係の確認について、パワハラ指針が例に挙げる主体は「相談窓口の担当者、人事部門又は専門の委員会等」です(4(3)イ p.7)。被害を受けた人への配慮、行為者への措置、再発防止も、会社が講じる措置として続きます。
厚生労働省のパワーハラスメント対策導入マニュアル(パワハラ防止措置が義務になる前に作られた実務の手引きで、以下では義務の根拠ではなく実務の参考として引きます)は、相談担当者の役割を「相談の受付(一次対応)に限る場合」と「事実確認なども行う場合」に分け、受付に限る場合は事実関係の調査などを人事担当部署などに引き継ぐ仕組みでもよいとしています(PDF p.36)。当社の整理では、外部に委託する形は多くの場合この「受付に限る」側にあたり、社内の窓口は事実確認まで担う形も選べます。この違いを相談の段階ごとに並べると、次のとおりです(指針と導入マニュアルをもとにした当社の整理)。
| 相談の段階 | 社内の窓口 | 外部に委託した窓口 |
|---|---|---|
| 最初に話を聞く | 社内の担当者。職場の事情を知っているが、相談者にとっては職場の人に話すことになる | 委託先。会社の外の人に話せるが、職場の事情は相談者の説明から把握することになる |
| 事実確認と措置 | 窓口の担当者がそのまま担うことも、人事部門へ引き継ぐこともできる | 会社に引き継ぐ。誰に・何が・いつ届くかを契約で決めておく |
| その場の対応(カスハラ) | 現場の管理監督者がその場で確認し対応できる | その場の対応は代わりにくい。現場の社内ルートと組み合わせる |
カスハラについては、告示51号が事実確認の例の1つ目に「管理監督者等がその場で事実関係を確認し対応すること」を挙げ(4(3)イ① p.18)、相談の担当者として「労働者の上司に当たる管理監督者等を定めることも考えられる」としています(4(2) p.16)。カスハラの相談を社内の現場に近い人が受ける形は、指針が挙げる例に沿っています。店長などを担当者にするときの決め方はカスハラ相談窓口の作り方にまとめています。
事実確認が難しいときに指針が挙げる「中立な第三者機関に紛争処理を委ねること」(パワハラ指針 4(3)イ② p.7)は、調停などの紛争処理を委ねる先の例です。相談窓口の委託とは別の項目なので、外部に窓口を置いたことで事実確認まで外に出せるとは読まないでください。
相談をためらう理由と、窓口の形で変わるもの
同じ実態調査で、パワハラを受けた人(1,546人)がその後に「社内の相談窓口に相談した」のは4.5%、「会社が設置している社外の相談窓口に相談した」のは2.8%でした。最も多かったのは「何もしなかった」の36.9%です(PDF p.139 図表159、複数回答)。社内か外部かを選ぶ前に、会社の用意した窓口がどちらの形でもあまり使われていないという事実から始める必要があります。
では、何もしなかった人は、なぜ相談しなかったのか。パワハラを受けて何もしなかった570人の回答(複数回答、PDF p.149 図表169)のうち、窓口や会社の対応に関わるものを、窓口の形で変わるかどうかで当社が整理したのが次の表です。調査は窓口の形との関係を尋ねたものではありません。「窓口の形で変わるか」の欄は、指針と導入マニュアルの記述をもとにした当社の見立てです。
| 何もしなかった理由(割合) | 窓口の形で変わるか | 形によらず会社がすること |
|---|---|---|
| 何をしても解決にならないと思った(65.6%) | 変わりにくい。解決するのは相談の後の会社の対応 | 相談の後に何をするか(事実確認・配慮・再発防止)を周知物に書く |
| 職務上不利益が生じると思った(20.7%) | 変わりにくい | 相談を理由に不利益な取扱いをしない旨を定め、周知する(パワハラ指針 4(4)ロ) |
| 相談しにくい雰囲気があった(13.7%)/人間関係が悪くなる懸念(13.3%) | 社外の入口は、職場の人に話さずに済む分、下げられる余地がある | 相談者の秘密が守られること、窓口でどう対応するかを明示する(導入マニュアル PDF p.35・p.37) |
| 窓口が公正に取り扱うと思えなかった(11.2%) | 社内とは別の受け手(外部や、人事以外の担当者)を置くと下げられる余地がある | 担当者の人選(導入マニュアル PDF p.36)、研修と人事部門との連携の仕組み(パワハラ指針 4(2)ロ) |
| 窓口がなかった(10.9%)/分からなかった(5.1%) | 変わらない。形ではなく、窓口を定めて知らせているかの問題 | 窓口を定め、連絡先を従業員が実際に見る場所に載せる |
| 経営者や役員など経営層が行為者だった(10.5%) | 社内の窓口だけだと、届け先が行為者の側になりうる | 経営層や人事が相手のときの別の届け先を決める(次の節) |
| 窓口の問題解決能力に疑問があった(8.6%) | 受付を外部に任せても、解決するのは会社 | 担当者の研修、あらかじめ作成したマニュアル(パワハラ指針 4(2)ロ) |
この整理からは、外部の窓口で下げられる余地があるのは主に「職場の人に話すこと」への抵抗と、社内の受け手が公正かどうかへの疑いだと分かります。最も多い「何をしても解決にならない」と「不利益が生じる」は、窓口の形ではなく、相談の後に会社が何をするかで決まります。調査報告書は、令和2年度調査と比べて、窓口や担当部署が「分からなかった」「問題解決能力に疑問があった」「公正に取り扱うと思えなかった」などの割合が増えたとしています(p.149)。