ハラスメントの匿名相談窓口とは?匿名性を守りながら対応する方法

ハラスメントの相談を匿名で受け付けることは、指針に定めのない、会社が選ぶ受け方です。名前を出さずに相談できる道は相談のハードルを下げますが、匿名のままでは事実確認に限界があります。指針の措置ごとに匿名のままできることを整理し、匿名性を守る運用と従業員への伝え方をまとめます。

更新
2026年10月3日
法令・資料の確認
2026年9月28日
読了の目安
11分
目次
  1. 匿名の相談は、指針のどこに位置づくか
  2. 「匿名」と「秘密を守る」は別のもの
  3. なぜ、名前を出さない道が要るのか
  4. 匿名の相談に、会社は何ができるか
  5. 匿名性を守りながら対応する運用
  6. 内部通報窓口と兼ねる場合
  7. ハラスメント対策室でできること
  8. よくある質問
  9. 次の一手

ハラスメントの相談を匿名で受け付けることは、法律や指針に定めのない、会社が選ぶ受け方です。名前を出さずに相談できる道があると、不利益や人間関係の悪化をおそれて黙っていた人が声を上げやすくなります。この受け方は、広く相談に対応することや相談者等のプライバシーを守ることを求める指針とも、向きがそろいます。一方で、匿名のままでは相談者と行為者の双方から事実を確かめることに限界があるため、匿名のままでできること・できないことを先に決め、従業員に伝えておくことが、運用の要です。

この記事は、社内のハラスメント相談窓口で匿名の相談を受け付けるかを検討している人事・総務担当者向けです。相談窓口そのものの設置義務や、社内・社外どちらに置くかは「ハラスメント相談窓口は設置義務?社内・社外どちらでもよいのか」で扱っています。

匿名の相談は、指針のどこに位置づくか

義務になっているのは「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」

事業主には、パワハラについて「労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」その他の措置が義務づけられています。2026年10月1日からはカスハラも加わりました(労働施策総合推進法 31条1項・33条1項。パワハラは9月30日までは30条の2)。セクハラについても、男女雇用機会均等法 11条1項が同じ措置を義務づけています。

その中身を定めた指針(パワハラは令和2年厚生労働省告示第5号、カスハラは令和8年厚生労働省告示第51号)は、相談窓口をあらかじめ定めて周知すること、担当者が内容や状況に応じて適切に対応できるようにすること、相談者等のプライバシーを守ることなどを求めています。これらの指針には「匿名」の語は出てきません。つまり、匿名で受け付けることは、指針上の措置として定められていません。窓口の形(担当者を決める、制度を設ける、外部に委託する)と同じく、匿名の受付を設けるかどうかも会社が決めます。

匿名の受付と向きがそろう、指針の2つの定め

定めはなくても、匿名の受付と同じ方向を向いた定めが2つあります。

  • 広く相談に対応する: 指針は、被害を受けた人が萎縮して相談をためらう例もあることを踏まえ、ハラスメントが起きている場合だけでなく、そのおそれがある場合や、該当するか微妙な場合も広く相談に対応するよう求めています(パワハラ指針4(2)ロ、p.6。カスハラ指針も同旨、p.17)
  • プライバシーを守り、そのことを知らせる: 相談への対応や事後の対応では、相談者・行為者等のプライバシーを守るために必要な措置を講じ、その旨を労働者に周知します(パワハラ指針4(4)イ、p.8。カスハラ指針p.24)

また、公的な相談先である総合労働相談コーナーは、厚生労働省の案内で「匿名でも大丈夫」としています。社内の窓口が匿名を受け付けていなくても、従業員は社外で匿名のまま相談できるということです。

「匿名」と「秘密を守る」は別のもの

社内で検討するときに混同しやすい2つの言葉を、先に分けておきます。

  • 匿名: 相談を受けた側が、相談者の名前を知らない状態
  • 秘密を守る(プライバシーの保護): 相談者の名前を知る人を必要な範囲に限り、ほかへ漏らさない状態

指針が求めているのは後者です。記名の相談でも、担当者が名前を知ったうえで秘密を守れば、この点で指針の求めに応えられます。匿名の受付は、その上に「最初は名前を言わなくてよい」という選択肢を足すものです。「匿名で受けているから、プライバシーの措置は不要」とはなりません。匿名の相談にも内容から人が特定されうる情報が含まれることがあるので、同じ措置が必要になります。

なぜ、名前を出さない道が要るのか

厚生労働省の委託調査(令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査、概要版p.23〜24)では、ハラスメントを受けた後に「何もしなかった」と答えた人が、パワハラで36.9%、セクハラで51.7%、顧客等からの著しい迷惑行為で35.2%でした。「社内の相談窓口に相談した」はそれぞれ4.5%、2.8%、3.8%です。

パワハラを受けて何もしなかった人(n=570)が挙げた理由(報告書本体 p.149、複数回答)を、匿名の受付との関係で次の表に並べます。右の列は編集部の整理です。

何もしなかった理由(抜粋) 割合 匿名の受付との関係(編集部の整理)
何をしても解決にならないと思ったから 65.6% 名前を伏せても変わらない。相談の後に会社が動く姿を見せることで応える
職務上不利益が生じると思ったから 20.7% 名前を出さずに始められることが、ためらいを減らしうる
パワハラについて相談しにくい雰囲気があったから 13.7% 同上
職場の上司や同僚との人間関係が悪くなることが懸念されたから 13.3% 同上
パワハラを取り扱う窓口や担当部署が公正に取り扱うと思えなかったから 11.2% 匿名で様子を見てから名前を出すか決められる
経営者や役員など経営層が行為者だったから 10.5% 匿名だけでは足りない。経営層から独立した相談先を用意する
職場内で公になることが懸念されたから 7.9% プライバシーの措置と、その周知で応える

最も多い理由は「何をしても解決にならないと思った」で、これは匿名にしても解消しません。匿名の受付は、不利益や人間関係をおそれる人の最初の一歩を軽くする仕組みで、相談の後の対応の質とセットで意味を持ちます。

匿名の相談に、会社は何ができるか

指針が定める、相談があった後に講じる措置には、匿名のまま進められるものと、名前が分からないと進めにくいものがあります。

指針の措置(パワハラ指針、p.6〜7) 匿名のままでできること 限界
相談に適切に対応する(4(2)ロ) 返信の手段があれば、状況を聞き、会社の判断や対応を相談者に伝えられる 返信の手段がないと、一方通行の投書になる
事実関係の確認(4(3)イ。相談者と行為者の双方から、主張が食い違えば第三者からも) 相談者への追加の質問。カスハラでは周囲の従業員からの聴取や録音・録画等の記録で確かめられる場合がある 行為者や第三者に聞くと、内容から相談者が推測されうる。進め方は相談者と相談して決める
被害者への配慮の措置(4(3)ロ。事実が確認できた場合に行う。配置転換、関係改善の援助など) 事実が確認でき、相談者が名前を明かすことに同意した後なら進められる 誰が被害者か分からないままでは、本人に向けた措置はとれない
行為者への措置(4(3)ハ。懲戒その他) 事実が確認できれば検討できる 事実の確認ができないうちは進められない
再発防止(4(3)ニ。方針の再周知、研修など) 事実が確認できなかった場合も講じると指針が定めている。匿名の相談でも、部署や職場全体への働きかけとして進められる 個別の事案の解決にはならない

事実確認が難しいときの対応として、指針は、法37条に基づく調停(都道府県労働局長が紛争調整委員会に行わせる調停)の申請その他、中立な第三者機関に紛争処理を委ねることを例に挙げています(パワハラ指針4(3)イ②、p.7)。カスハラの事実確認では、周囲の従業員からの聴取や録音・録画等の客観的な証拠の確認が例に挙がっており、行為者(顧客等)からの聴取は「必要かつ可能な場合」とされています(カスハラ指針p.18〜19)。行為者が社外の人である分、相談者を明かさずに確かめられる範囲は、社内のハラスメントより広いことがあります。

また、相談には、言動を直接受けた人からだけでなく、それを見聞きした周囲の労働者から寄せられるものも含まれます(厚生労働省パンフレット p.29)。匿名の窓口には、こうした「見ていた人」からの相談も届きやすくなると考えられます。

事実関係の確認の具体的な順序は「カスハラ対応フロー図」で扱っています。

匿名性を守りながら対応する運用

ここからは指針の定めではなく、編集部の実務上の提案です。

1. 返信できる手段を用意する

匿名の相談で最も困るのは、追加で聞きたいことがあっても相談者に届かないことです。厚生労働省のパンフレットは、事業主としてどう判断し、今後どう対応するかを相談者本人にフィードバックすることも大切だとしています(p.30)。名前を知らないまま返信できる手段(受付番号で続きを書ける仕組み、個人を特定しない連絡先の案内など)を、窓口を公開する前に決めておきます。

2. 相談を見る人を決め、記録に残す

匿名の相談でも、内容を読む人が多ければ、文面から相談者が推測されるおそれは高まります。誰が相談を読むのか、相談の相手が読む側の人(上司、人事担当者など)だったときはどうするのかを決めておきます。閲覧した人と日時が記録に残る形にしておくと、後から確かめられます。

3. 名前を明かす条件を、本人の同意にそろえる

匿名で始まった相談でも、事実確認や本人への配慮の措置に進むには名前が要ることがあります。そのときは担当者が相談者に理由を説明し、名前を明かすかどうかは本人が決めることを原則にします。行為者や第三者へ何をどこまで伝えるかも、事前に相談者と確かめます。内部通報の分野では、ハラスメント事案で被害者と通報者が同じ人のとき、通報者を特定させる事項を共有する際に、書面等で同意を得ることが望ましいとされています(消費者庁 公益通報者保護法に基づく指針の解説 p.18)。ハラスメントの相談窓口でも参考になる考え方です。

4. 「匿名でも特定されうる」ことを隠さない

少人数の職場や、日時と場所が限られた出来事では、名前を書かなくても誰の相談か分かることがあります。「絶対に分からない」と約束するより、会社として何をするか(読む人を限る、同意なく名前を伝えない)を具体的に示すほうが、相談する人の判断に役立ちます。

5. 従業員への周知で伝える3点

窓口を周知するときに匿名について添えるのは、次の3点です。周知物に載せる項目全体は「カスハラ相談窓口の作り方」を参照してください。

  • 名前を出さずに相談できること、その方法
  • 匿名のままでは会社がとれる対応に限りがあること(事実確認や本人への配慮の措置には、本人の同意を得て名前を伺う場合があること)
  • 相談したことを理由に不利益な取扱いをしないこと、相談者のプライバシーを守ること(パワハラ指針4(4)イ・ロ、p.8、カスハラ指針p.24〜25で周知が求められている事項です)

内部通報窓口と兼ねる場合

ハラスメントの相談窓口を、公益通報者保護法の内部通報窓口と一体で運用している会社もあります。消費者庁の指針の解説は、内部公益通報受付窓口がハラスメントの通報・相談窓口を兼ねることも可能としたうえで(p.8)、内部公益通報対応の実効性を確保するため、匿名の内部公益通報も受け付けることが必要と整理しています(p.11)。連絡手段として、個人を特定できないメールアドレスや、チャット等の専用システムなどを例に挙げています。

同じ窓口でも、ハラスメントの相談に当たる部分と内部公益通報に当たる部分では、根拠となる法律と求められる対応が違います。兼ねている場合は、通報の側で匿名の受付が求められているので、ハラスメントの側の運用もそれとそろっているかを確かめておくと混乱しません。なお、この解説は、常時使用する労働者が300人以下の事業者については、実情に応じて可能な限り従うよう努める扱いとしています(脚注2)。

公益通報者保護法の改正法(令和7年法律第62号)は2026年12月1日に施行されます(消費者庁)。同日から適用される改正後の解説も公表されており、匿名の受付についての記述は同じ趣旨です(p.12)。改正後の解説には、ハラスメントの窓口と兼ねる場合も、内部公益通報の窓口がハラスメント関連だけを対象としていると誤解されないよう周知等に留意することが加わっています(p.8)。

ハラスメント対策室でできること

ハラスメント対策室は、従業員の相談が、会社の定めた担当者へ届くまでの流れを支えるサービスです。相談者が共有を選ぶまでの場所は、本人専用の相談整理スペースで、会社の窓口でも外部の相談窓口でもありません。

  • ログイン不要のQRコード・URLからの相談は匿名です
  • ログインして相談する場合は、共有するときに匿名・記名・共有しないを本人が選びます
  • 本人が共有を選ぶまで、会社には何も届きません
  • 匿名で共有された相談にも、担当者は相談者の名前を知らないまま返信できます(テキストのみ)
  • 閲覧や確認の操作は記録に残ります

内容の整理は自動化された仕組み(AI)が手伝い、判断と対応は会社の担当者(人)が行います。危険を感じる内容では110番や労働局などの公的窓口を案内し、自動で通報はしません。

よくある質問

匿名の相談を受け付けないと、法令違反になりますか

匿名の受付は、法律や指針に定められた措置ではありません。求められているのは、相談窓口を定めて周知し、担当者が適切に対応できるようにし、相談者等のプライバシーを守ることなどです。ただし、内部通報窓口と兼ねている場合は、公益通報者保護法の指針の解説で、匿名の内部公益通報も受け付けることが必要とされている点に注意してください。

匿名の相談で事実が確認できなかったら、何もしなくてよいですか

指針は、ハラスメントが生じた事実が確認できなかった場合も、方針の再周知や研修などの再発防止に向けた措置を講じるよう定めています(パワハラ指針4(3)ニ、p.7。カスハラ指針p.21)。相談者への返信の手段があれば、会社として何をしたかを伝えることもできます。

外部の相談窓口に委託すれば、匿名性は守られますか

委託先が相談者の名前を会社へ伝えるかどうかは、契約で決める事項です。委託先から会社へ「誰に・何が・いつ」届くかの決め方は「ハラスメント相談窓口を外部委託するには」で扱っています。

次の一手

  1. 自社の窓口が匿名の相談を受け付けているか、受け付けているなら返信の手段があるかを確かめる
  2. 相談を読む人の範囲と、相談の相手がその人だったときの行き先を決める
  3. 名前を明かす条件(本人の同意)と、匿名のままではできないことを周知物に書き足す

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出典

方針・周知・研修・相談窓口・記録をひとつで

セットアップは無料です。従業員を招待して窓口を公開するときに契約します。

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