カスハラ研修をオンラインで実施する方法|内容・時間・受講記録まで

カスハラ研修はオンラインで実施できます。指針は形式や時間を定めていないため、要点は自社の方針と対処の内容を入れること、全ての労働者に届けること、届いたことを記録で示せることです。形式の選び方、対象の分け方、受講時間の扱い、受講記録、公的な無料教材の使い方を一次資料から整理します。

更新
2026年10月5日
法令・資料の確認
2026年9月28日
読了の目安
9分
目次
  1. 形式は3つ:ライブ配信、動画(eラーニング)、組み合わせ
  2. 汎用の動画だけで済ませない:自社パートを足す
  3. 誰に何を届けるか:対象ごとの中身
  4. 時間:法令の定めはなく、受講時間は労働時間になる
  5. 受講記録:何を残せば「全員に届いた」と示せるか
  6. 厚生労働省の無料教材を使うときの条件
  7. オンライン研修の実施手順
  8. よくある質問
  9. ハラスメント対策室の研修

カスハラ研修は、オンライン配信やeラーニングで実施できます。厚生労働省の指針は周知・啓発の方法の例として「研修、講習等」を挙げるだけで、形式・回数・時間を定めていないためです。形式より大事なのは、自社の方針と対処の内容を中身に入れること、管理監督者を含む全ての労働者に届けること、届いたことを後から記録で示せることの3つです。

2026年10月1日から、改正労働施策総合推進法33条1項により、事業主はカスハラから労働者を守る措置を講じる義務を負います。研修そのものは措置義務の項目ではなく、方針と対処の内容を全ての労働者に周知・啓発する方法の一つです。これとは別に、同法34条2項は「研修の実施その他の必要な配慮」を事業主の努力義務としています。この法的な位置づけは「カスハラ研修は義務?」で整理しています。

形式は3つ:ライブ配信、動画(eラーニング)、組み合わせ

オンラインの研修は、大きく次の3つに分かれます。指針はどれかを指定していないので、勤務形態と伝える中身で選びます(以下の整理は当社の実務上の提案です)。

形式 向く場面 気をつけること
ライブ配信(Web会議) 管理職・相談窓口担当者など人数が少なく、質疑やケース検討をしたい対象 全員の時間をそろえにくい。欠席者には録画や別日程を用意する
動画・eラーニング(オンデマンド) シフト勤務や拠点が多く、全員に同じ内容を届けたい対象 その場で質問できない。問い合わせ先を動画の最後に示す
組み合わせ 共通の内容は動画、自社の方針と対処の内容は短いライブや説明で補う 両方を受けて1回の受講と数えるなら、記録も両方で取る

東京都のカスハラ防止指針は、再発防止の取組の中で「eラーニングを活用した周知」も有効と書いています(第5の13、p.26)。eラーニングを周知の手段として使うことは、公的な資料の上でも想定されています。

汎用の動画だけで済ませない:自社パートを足す

市販や公的な研修動画は、どの会社にも当てはまる内容で作られています。一方、指針が周知・啓発を求めているのは、自社の方針と、自社があらかじめ定めた対処の内容です(指針 4(1)イ・ロ、p.12〜15)。

厚生労働省の解釈Q&Aの問20更問は、業界団体が作成したマニュアルを配布するだけでは、方針と対処の内容の周知の措置義務を果たしたことにならないとしています(印字p.26)。一方で、同じ問答によれば、自社の方針と対処の内容を周知するときに併せて配布することは効果的です。研修動画について直接答えた問答はありませんが、自社の内容が入っていない汎用の動画にも同じ考え方が当てはまると考えられます。

そこで、オンライン研修は「共通パート」と「自社パート」の2つで組みます。

  • 共通パート:カスハラとは何か、正当な苦情との違い、対応の基本。汎用の動画や公的教材で扱える
  • 自社パート:自社の方針(カスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨)と、自社で定めた対処の内容(誰に報告するか、一人で対応させない、記録の取り方など)

指針は方針をトップメッセージとして発信することも考えられるとしています(4(1)イ①、p.13)。自社パートは、経営者が話す短い動画や、方針と対処の内容をまとめた文書を研修の中で示す形で用意できます。対処の内容の例は指針に並んでいますが、限定列挙ではなく各事業主が実態に応じて定めるものです(p.14)。まだ決めていなければ、研修の準備より先に「カスハラ対応マニュアルの作り方」を参考に対処の内容を定めます。

誰に何を届けるか:対象ごとの中身

全員に届けるものと、役割ごとに足すものを分けます。

対象 伝える中身 根拠
管理監督者を含む全ての労働者 自社の方針、カスハラの内容、自社の対処の内容 指針4(1)イ・ロ(措置義務、p.12〜15)、解釈Q&A問8・更問
顧客等に対応する労働者 上に加え、類型別の対応方法、苦情対応の流れ、記録の作成方法、ケーススタディ 企業マニュアルが挙げる研修の内容例から当社が選んだもの(推奨、印字p.34)
相談窓口の担当者 相談を受けたときの対応、相談者等のプライバシー保護 指針4(2)ロ③(p.17)・4(5)イ②(p.24)の措置の例、企業マニュアル(推奨、印字p.36)

全員の範囲は広くとります。指針の「労働者」は、パートタイム労働者や契約社員などを含む、事業主が雇用する労働者の全てで、派遣労働者を受け入れている会社も自社の労働者と同様に措置を講じる必要があります(2(3)、p.3〜4)。解釈Q&Aの問8と更問は、顧客対応のない部署の労働者にも、方針と対処の内容を周知する必要があるとしています(印字p.12〜13)。

管理監督者には、全員向けの内容に加えて、報告を受けたときの動き方を確かめておくと実務に合います。指針は、労働者から報告があった場合などに管理監督者等が直ちに適切な対応をとる必要がある場合もあることを踏まえて、対処の内容を定めるとしています(4(1)ロ、p.14)。

厚生労働省の企業マニュアルは、経営層・相談窓口担当者・上司や現場監督者など、階層・役割別の研修も重要としています(印字p.34)。対象ごとのカリキュラムはハラスメント研修の内容で整理しています。

時間:法令の定めはなく、受講時間は労働時間になる

研修の長さや回数について、指針・解釈Q&Aに定めはありません。企業マニュアルは研修を全員が受講し、定期的に実施することが重要とし、中途入社の従業員やパート・アルバイト等にも入社時に研修や説明を行うよう勧めています(印字p.34)。東京都の指針も全員の受講と定期的な実施を望ましいとしています(第5の12、p.26)。いずれも推奨です。

時間を決めるときに見落としやすいのが、労働時間の扱いです。厚生労働省の労働時間の適正な把握のためのガイドラインは、参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講時間を、労働時間として扱わなければならない時間に挙げています(3ウ、p.2)。ガイドラインは受講する場所で区別していないため、受講を業務として求めるカスハラ研修は、自宅でスマートフォンから見る場合も同じ扱いになると考えられます。

そのため、オンラインの研修でも「空いた時間に各自で」ではなく、勤務時間内に受講の枠を設けるか、受講した時間を勤務時間として記録する運用にしておきます。動画が長いほど確保する時間も増えるので、共通パートと自社パートを分けて、1回で見終わる長さに収めると回しやすくなります(当社の提案)。

受講記録:何を残せば「全員に届いた」と示せるか

受講記録を残すこと自体は、法令や指針の要求ではありません。それでも、全ての労働者に周知したことを後から確かめるには、誰がいつ受けたかの記録が役に立ちます。当社が勧める最小の項目は次の5つです。

  1. 対象者の名簿:その時点で在籍する全員。パート・アルバイト、顧客対応のない部署、派遣で受け入れている人も含める
  2. 教材の版:どの内容(方針と対処の内容の版)を見せたか。改訂したら新しい版として扱う
  3. 完了日:受講を終えた日
  4. 完了の基準:最後まで視聴した、確認テストに答えた、など、何をもって完了とするか
  5. 未受講者への対応:期限を過ぎた人への連絡、休職中の人の扱い

Web会議の入退室の記録は、参加した記録には使えます。内容を理解したかまで確かめたいときは、確認テストなど別の方法を組み合わせます。

記録は一度で終わりません。企業マニュアルが入社時の研修を勧めているとおり、中途入社の人は入社のたびに対象へ加わります。方針や対処の内容を改めたときは、新しい版で届け直します。指針も、カスハラが生じた後の再発防止の措置の例として、方針と対処の内容を周知・啓発する研修、講習等を改めて実施することを挙げています(4(3)ハ②、p.21)。記録を版ごとに分けておくと、この3つの場面で誰に届け直すかがすぐ分かります。記録の項目・保管・更新の考え方はハラスメント研修の受講記録の残し方で詳しく整理しています。

厚生労働省の無料教材を使うときの条件

厚生労働省の「あかるい職場応援団」は、研修動画とPDF資料を公開しています。カスタマーハラスメント対策の動画のほか、スーパーマーケット業界と宅配業の業種別カスハラ対策研修もあります。同じページの「ハラスメントオンライン研修講座」はパワハラ対策のセミナーで、カスハラ専用ではありません。

利用にあたって、同ページには次の注意が書かれています。

  • 申請や連絡は不要で、出典を明示して利用する
  • 一部を切り取るなどの加工はしない
  • 営利目的での使用は遠慮する
  • 動画はダウンロードできず、ストリーミング再生で見る

ここから、使い方はおおむね決まります。動画ファイルを社内のシステムに取り込むのではなく、ページへのリンクから視聴してもらう形です。受講の記録は自社で取ることになるので、完了日の報告や確認テストを自社で用意します。切り取りができないため、自社パートは動画の前後に別に置きます。

オンライン研修の実施手順

  1. 方針と対処の内容を確定する:自社パートの中身。これがないと研修が始められない
  2. 対象者の名簿を作る:在籍者全員。雇用形態と部署を問わない
  3. 形式を選ぶ:全員向けは動画、役割別はライブ、など対象ごとに決める
  4. 共通パートの教材を決め、自社パートを用意する:公的教材を使うなら利用条件を確かめる
  5. 期限と受講の枠を決めて案内する:勤務時間内の受講を前提にする
  6. 完了を記録し、未受講者に連絡する:5つの項目で残す
  7. 届け直す場面を決めておく:中途入社、方針・対処の内容の改訂、事案の後

研修以外の措置(相談窓口の設置と周知など)がどこまで進んでいるかは、無料・登録不要の対応状況チェックで確かめられます。義務化の全体像は「カスハラ対策の義務化とは?」にまとめています。

よくある質問

研修動画を見てもらうだけで足りますか

指針が求めているのは、自社の方針と対処の内容を全ての労働者に周知・啓発することです。汎用の動画にこの2つが入っていなければ、動画とは別に自社パートを届ける必要があります。解釈Q&Aの問20更問が業界団体のマニュアルについて示している考え方を、動画に当てはめたものです。

自宅でスマートフォンから見てもらってもよいですか

形式に制限はないので、自宅で視聴してもらう運用も取れます。ただし、受講を業務として求める以上、その時間は労働時間として扱う必要があります(労働時間ガイドライン3ウ)。勤務時間として記録する方法を先に決めておきます。

派遣社員やアルバイトも対象ですか

対象です。指針の「労働者」は事業主が雇用する労働者の全てで、パートタイム労働者や契約社員を含みます。派遣労働者を受け入れている会社も、自社の労働者と同様に措置を講じる必要があります(指針2(3)、p.3〜4)。

ハラスメント対策室の研修

ハラスメント対策室の研修は、共通編・一般従業員編・管理職編・人事・相談担当編・顧客対応者編・採用担当者編・発注者・進行責任者編・経営・導入責任者編の8編です。確認テストがあり、受講記録が残ります。各社に共通する内容を扱う教材なので、自社の方針と自社で定めた対処の内容は、会社が研修と併せて伝えます。

全8編を確認できるのは、契約中の管理者です。契約前でも、共通編の冒頭4分19秒をログインせずにサンプルで見られます。

研修動画のサンプルを見る(共通編の冒頭4分19秒・ログイン不要)

出典

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