カスハラ研修は、オンライン配信やeラーニングで実施できます。厚生労働省の指針は周知・啓発の方法の例として「研修、講習等」を挙げるだけで、形式・回数・時間を定めていないためです。形式より大事なのは、自社の方針と対処の内容を中身に入れること、管理監督者を含む全ての労働者に届けること、届いたことを後から記録で示せることの3つです。
2026年10月1日から、改正労働施策総合推進法33条1項により、事業主はカスハラから労働者を守る措置を講じる義務を負います。研修そのものは措置義務の項目ではなく、方針と対処の内容を全ての労働者に周知・啓発する方法の一つです。これとは別に、同法34条2項は「研修の実施その他の必要な配慮」を事業主の努力義務としています。この法的な位置づけは「カスハラ研修は義務?」で整理しています。
形式は3つ:ライブ配信、動画(eラーニング)、組み合わせ
オンラインの研修は、大きく次の3つに分かれます。指針はどれかを指定していないので、勤務形態と伝える中身で選びます(以下の整理は当社の実務上の提案です)。
| 形式 | 向く場面 | 気をつけること |
|---|---|---|
| ライブ配信(Web会議) | 管理職・相談窓口担当者など人数が少なく、質疑やケース検討をしたい対象 | 全員の時間をそろえにくい。欠席者には録画や別日程を用意する |
| 動画・eラーニング(オンデマンド) | シフト勤務や拠点が多く、全員に同じ内容を届けたい対象 | その場で質問できない。問い合わせ先を動画の最後に示す |
| 組み合わせ | 共通の内容は動画、自社の方針と対処の内容は短いライブや説明で補う | 両方を受けて1回の受講と数えるなら、記録も両方で取る |
東京都のカスハラ防止指針は、再発防止の取組の中で「eラーニングを活用した周知」も有効と書いています(第5の13、p.26)。eラーニングを周知の手段として使うことは、公的な資料の上でも想定されています。
汎用の動画だけで済ませない:自社パートを足す
市販や公的な研修動画は、どの会社にも当てはまる内容で作られています。一方、指針が周知・啓発を求めているのは、自社の方針と、自社があらかじめ定めた対処の内容です(指針 4(1)イ・ロ、p.12〜15)。
厚生労働省の解釈Q&Aの問20更問は、業界団体が作成したマニュアルを配布するだけでは、方針と対処の内容の周知の措置義務を果たしたことにならないとしています(印字p.26)。一方で、同じ問答によれば、自社の方針と対処の内容を周知するときに併せて配布することは効果的です。研修動画について直接答えた問答はありませんが、自社の内容が入っていない汎用の動画にも同じ考え方が当てはまると考えられます。
そこで、オンライン研修は「共通パート」と「自社パート」の2つで組みます。
- 共通パート:カスハラとは何か、正当な苦情との違い、対応の基本。汎用の動画や公的教材で扱える
- 自社パート:自社の方針(カスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨)と、自社で定めた対処の内容(誰に報告するか、一人で対応させない、記録の取り方など)
指針は方針をトップメッセージとして発信することも考えられるとしています(4(1)イ①、p.13)。自社パートは、経営者が話す短い動画や、方針と対処の内容をまとめた文書を研修の中で示す形で用意できます。対処の内容の例は指針に並んでいますが、限定列挙ではなく各事業主が実態に応じて定めるものです(p.14)。まだ決めていなければ、研修の準備より先に「カスハラ対応マニュアルの作り方」を参考に対処の内容を定めます。
誰に何を届けるか:対象ごとの中身
全員に届けるものと、役割ごとに足すものを分けます。
| 対象 | 伝える中身 | 根拠 |
|---|---|---|
| 管理監督者を含む全ての労働者 | 自社の方針、カスハラの内容、自社の対処の内容 | 指針4(1)イ・ロ(措置義務、p.12〜15)、解釈Q&A問8・更問 |
| 顧客等に対応する労働者 | 上に加え、類型別の対応方法、苦情対応の流れ、記録の作成方法、ケーススタディ | 企業マニュアルが挙げる研修の内容例から当社が選んだもの(推奨、印字p.34) |
| 相談窓口の担当者 | 相談を受けたときの対応、相談者等のプライバシー保護 | 指針4(2)ロ③(p.17)・4(5)イ②(p.24)の措置の例、企業マニュアル(推奨、印字p.36) |
全員の範囲は広くとります。指針の「労働者」は、パートタイム労働者や契約社員などを含む、事業主が雇用する労働者の全てで、派遣労働者を受け入れている会社も自社の労働者と同様に措置を講じる必要があります(2(3)、p.3〜4)。解釈Q&Aの問8と更問は、顧客対応のない部署の労働者にも、方針と対処の内容を周知する必要があるとしています(印字p.12〜13)。
管理監督者には、全員向けの内容に加えて、報告を受けたときの動き方を確かめておくと実務に合います。指針は、労働者から報告があった場合などに管理監督者等が直ちに適切な対応をとる必要がある場合もあることを踏まえて、対処の内容を定めるとしています(4(1)ロ、p.14)。
厚生労働省の企業マニュアルは、経営層・相談窓口担当者・上司や現場監督者など、階層・役割別の研修も重要としています(印字p.34)。対象ごとのカリキュラムはハラスメント研修の内容で整理しています。
時間:法令の定めはなく、受講時間は労働時間になる
研修の長さや回数について、指針・解釈Q&Aに定めはありません。企業マニュアルは研修を全員が受講し、定期的に実施することが重要とし、中途入社の従業員やパート・アルバイト等にも入社時に研修や説明を行うよう勧めています(印字p.34)。東京都の指針も全員の受講と定期的な実施を望ましいとしています(第5の12、p.26)。いずれも推奨です。
時間を決めるときに見落としやすいのが、労働時間の扱いです。厚生労働省の労働時間の適正な把握のためのガイドラインは、参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講時間を、労働時間として扱わなければならない時間に挙げています(3ウ、p.2)。ガイドラインは受講する場所で区別していないため、受講を業務として求めるカスハラ研修は、自宅でスマートフォンから見る場合も同じ扱いになると考えられます。
そのため、オンラインの研修でも「空いた時間に各自で」ではなく、勤務時間内に受講の枠を設けるか、受講した時間を勤務時間として記録する運用にしておきます。動画が長いほど確保する時間も増えるので、共通パートと自社パートを分けて、1回で見終わる長さに収めると回しやすくなります(当社の提案)。